商標は、いろいろ。 商標に取り組んでみては如何!
能條佑敬(弁理士)
商標を保護する商標法ができて125年を経過したそうです。そこで、「125年経過の日本の商標状況」の一コマをご説明します。
まず、「商標法により登録されている商標の数」を見ることにします。2010年8月の特許庁データから国内人による商標登録数を推定すると約140万件です。
この140万件との数を皆さんはどんな思いを持たれますか。140万件を国内の個人や法人が所有しているのですが、多すぎる数でしょうか、それとも少なすぎる数でしょうか。
件数では把握できにくいと思います。そこで、140万件を保有しているであろう事業所数を推定することにしましょう。商標は、商い、つまり事業のためのものだからです。
商標を登録する場合、1事業所の商標保有数は1件だけではありません。文字商標「ABCD」のほかに「(花や鳥などの)図」の商標をも登録していることがしばしばだからです。一事業所で何千件もの商標を保有していることもあります。そのため、約140万件を140万の事業所が保有していると考えるのは適切ではなさそうです。そこで、文字の商標はもっているが図の商標を持っていない人を考慮して1事業所あたり登録している商標を平均1.5件であるとしてみましょう。すると国内登録件数140万件÷平均1.5で93万の事業所が登録商標を保有していることになります。この93万件を登録商標保有事業所数とします。
とはいうものの、登録商標保有事業所数が93万事業所と言われても状況を理解できません。そこで日本の事業所数について調べてみると、日本の総事業所数は事業内容不明を除外すると591万事業所だそうです(総務省統計局)。
そうだとすると、日本の総事業所591万から登録商標保有事業所数93万(16%)を差し引いた498万事業所(84%)が商標を登録していない事業者数となります。
事業所の16%が商標を登録していて、84%が商標を登録していないことになります。
・・・この状況は、どのように理解すれば良いのでしょうか。
以上は、登録商標から見た商標の状況です。
次に、商標を使っていても登録することは強制されてなく登録する、しないは自由です。そのことを考えると、登録しないで商標を使っている人はいるわけですから、そのことをふまえ現実にはどんな風に商標が使われているかを見てみましょう。
現実に使われている商標をパターン化するとおよそ次のようになります。
【パターン表】
| パターン5 |
「造語・既成外図型」
(例 SONY) |
個性的。似たものが発生しにくい。要好印象
4〜6文字が最適 |
| パターン4 |
「既成の語・図型」
(例 パソコンに『アップル』) |
既存の語、図を意味する分野以外で使用
(PRしやすいが似たものが発生しやすい(防衛努力が必要) |
| パターン3 |
「名・地名+業種型」
(例 愛知楽器店、東京通信工業) |
全国的に多数存在。
似たもの多数で区別されにくく維持負担のおそれ。 |
| パターン2 |
「看板型」
(例 建物、看板娘) |
経営者・店・場所等を商いの看板(商標)と考える
狭い範囲では商いの標識に。保護困難 |
| パターン1 |
「大雑把型」
(商標と言い難い表示) |
商品名、材料、地名、効用・・を商いの表示と考え他に標識なし |
表の下から上への順に説明をします。パターン1から5への順です。
◆パターン1 【大雑把型】
一般的に言えば、商標を使用していないと言えます。でも本人は商品に商標を表示していると考えている人たちなのです。
商品の一般的名称、原材料名、地名、効用などの類で商品の一般的名称を表示しているに過ぎないのですが、本人は、商標は商いの標識なのだから如何なる形であれ標識を表示していれば商標といえる,と言うのです。大雑把な考え方ですが商標は「商いの標識」とだけ考えるのであれば、この場合でも商標を表示していると言えるのかもしれません。
◆パターン2 【看板型】
経営者・店の建物・場所等を商標としています。
商いの標識として、経営者自身が有名人であることや店舗の形状が個性的であること、店舗の位置に特徴があるなどの特徴をもってすれば顧客を集めることができるので、それを商標とすると考えています。特に地方で見受けられます。商域が近隣に限られるので,十分なのでしょう。
◆パターン3 【氏名や所在地の地名と業種を組み合わせた型】
この段階から,商標らしき内容となります。氏名や地名に業種を組み合わせます。この形のものは,通常は商標登録が難しいのです。
たとえば、○○住宅(○○は氏名や地名で、それに業種名の住宅を結合した)形です。駅近くを眺めてみて下さい。○○住宅社、○○住宅センター、○○住宅情報社、○○不動産、○○不動産建設など類似のものがたくさんあります。混乱しやすいのですが商標として作りやすいため全国的に多いパターンです。
◆パターン4 【既成の語や図形を使った商標とする型】
既成語に「リンゴ」、「アップル」との語があります。これを果実の箱や商品に付けるタグなどに記した場合には在中物は果実だと思わせるので果実の分野では登録をすることはできません。しかし、果実とは関係の薄いパソコンや情報通信機器に記した場合には果実だとは思わないので、どこかの会社のパソコンや情報通信機器の商標だと認識します。そのため商標として登録が可能であり多数登録されています。
◆パターン5 【既成の語や既成の図ではないものを商標とする型】
ありていに言えば、辞書にない語(造語)と理解すればよいでしょう。
欧文字で4〜6構成のものを作り,それが良いイメージに認識されるなら世界に通用しやすいと言われています。代表例は「SONY」です。昭和30年代には社名を「東京通信工業」と名乗っていました。テープレコーダーの販売経験からトランジスターラジオ販売にあたって商標が大事と考え世界で使える商標を検討した結果「SONY」となったことが知られています。
・・・
セミナーなどでパターン4と5の商標に限定し、それが商標であるとして話を進める場合があります。でも前記のように商標と言ってもいろいろなパターンの商標があるのです。
いろいろあるとしてパターン表を改めて見ていただくと、商標にはパワーが必要なのですが商標としてのパワーはパターンの1から5への順に強くなることにお気づきでしょう。ですから、商標を使うのであれば前記パターン表における4か5を目指すという事になります。
パターン1あるいは2の人は、商標とは、単に商いの標識なのだから何らかの目印さえあればよいと考えていることです。その先に「標識は自分と他人とを見分ける働きがなければならない」との理解が必要なのですが、その点はご存じではないようです。
顧客が遠方であるとか、不特定の人が顧客であるとか、自分の商品に自信を持っているとのような場合には、パターン4か5を目指さないと経営努力をしても成果に結びつかない要因になりがちです。迅速に的確に自分の商品を見分けてもらう仕掛けをすべきではないでしょうか。
さて、以上のパターンにおいて、4か5であれば通常は登録できますが、1〜3のパターンに属する商標を登録するために出願しても通常では登録することができません。 そこで、前記の登録商標保有事業所数を思い出して下さい。パターンにおいて登録商標保有事業所数が占める状況を見ましょう。登録商標保有事業所数93万事業所は登録した商標を有しているのですから、パターンにおける4と5の事業所が該当するとして良いと思います。そして、残りの498万事業所がパターン1〜3の事業所と考えて良さそうです。
1〜3と4〜5との比は498:93であり差があります。商標を保有する事業所数は少ないのです。
商標を保護する制度が導入され125年を経過しましたが,まだまだ商標を事業に活用している人は少ないのが実情のように思いますし、差を縮めるための努力とか応援が求められている気がします。
以上の商標の実情から思っていることがあります。
パッケージデザインにおいてコミュニケーションが目標の一つだそうですが、商標も顧客に対し商品の出所や品質等のコミュニケーションを行う用具だといわれています。その点からすると、パッケージデザインも商標も同じ役割を担っていると言えます。
前記商標の実情からすればパッケージのデザインをする時に商標をも合わせて考えてみると広がりがある仕事が実現し社会に貢献できるのではないかと思っていることです。 |