| 3年使っていない登録商標は取り消せる
益子 博 中央大学理工学部講師
1.不使用登録商標の取消制度
先行する他人の気になる登録商標があった場合、これと同一または類似の商標を使用できるようにするためには、その登録を取り消してしまうという方法があります。商標法には意匠法や特許法にはない「不使用取消審判」という制度があり、登録商標が3年以上使われていないと、審判手続によって登録を取り消すことができるのです。これを利用すれば、邪魔な他人の登録商標を排除することができます。自分の商標を積極的に活かすために、この制度について検討してみることにしましょう。
2.登録商標の使用実態
特許庁と知財研が行った登録商標の使用実態調査によりますと、現に使われている登録商標の割合は、全体の30%程度にすぎず、実にその70%は使われていないという結果がでています。また、登録商標が使われていたとしても、実際に使っているのは指定商品(または役務。以下同じ)中のごく一部であって、残りの多くはほとんど使われていないという現実があります。同一区分(類)内の商品はすべて指定できますから、出願人の心理としては、幅広く指定しておいてストック的に権利化しておきたいと考えるのはむしろ当然かもしれません。さらに、登録商標と実際に使っている商標が微妙に違っていることもよくあります。登録商標と使用商標が違っていると、登録商標の使用とは認められません。
3.使うことに意義がある商標
このように、多くの登録商標が使用されているとはいえないこと、使われていたとしても登録商標の使用とは認められないことがあることなどから、先行する他人の気になる登録商標があったとしてもそれだけですぐにあきらめる必要はありません。不使用取消審判制度を利用して、使われない邪魔な登録商標を取り消してしまいましょう。商標は使うことに意義がありますから、登録を取り消すことで使いもしない商標を整理することは奨励されこそすれ非難されることではないはずです。
4.「Magic」事件
実際に使われていた商標が、登録商標の態様とは違うとして問題になった事件を紹介します。「Magic」という登録商標が使われているとはいえないとして不使用取消審判を請求され、それが認められて登録を取り消されたケースです。
X(原告)は化粧品に「Magic」という登録商標をもっていました。Y(被告)は、Xの「Magic」は3年以上使われていないとして、特許庁に不使用取消審判を請求しました。特許庁は、被告の請求を認めて原告の「Magic」の登録を取り消す旨の審決をしましたが、Xはこれを不服として東京高裁に審決取消訴訟を提起しました。結論は、裁判所もまた原告は「Magic」を使用しているとは認められないとして、「Magic」の登録は取り消されてしまいました。
5.「Magic」の使用態様
登録した「Magic」をそのままの態様で使っていれば問題ありませんが、実際に使っていた商標は「ALOE MAGIC」で、「ALOE」と「MAGIC」を上下2段に横書きしていました。Xは他社に「Magic」の通常使用権を許諾し、その使用権者が「ALOE MAGIC」の表示で化粧品を販売していましたから、Xは「Magic」を使用していると主張しました。

6.裁判所の判断
裁判所は、「ALOE」と「MAGIC」が2段に表示されているとしても、「その全体が外観において極めて緊密な一体性を有している」と評価し、称呼においても「ALOE MAGIC」は「アロエマジック」と一連によどみなく称呼し得るとして、「ALOE MAGIC」の文字全体に自他商品識別機能があると述べ、登録商標の「Magic」を使用しているとは認めませんでした。
7.社会通念上の同一
「ALOE MAGIC」が使用されているからといって、登録商標の「Magic」が使用されているとはいえないとしたわけですが、その理由は「社会通念上同一」ではない、というものです。登録商標と使用商標が違っている場合、どこまでが登録商標の使用と認められるかは、社会通念上同一といえるかどうかで決まります。登録商標と「類似」することではなく、「社会通念上同一」であることに注意すべきでしょう。
平成8年の商標法改正の際に、社会通念上同一の商標の具体例が公表されていますので、その一部を以下に紹介します。
■登録商標の使用と認められる事例
(1)書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標



(2)平仮名、片仮名およびローマ字を相互に変更するものであって、同一の称呼および観念を生ずる商標


(3)外観において同視される図形からなる商標

(4)その他、社会通念上同一と認められる商標


(2段併記のときに上下で観念同一、その一方の使用)
■登録商標の使用と認められない事例
(1)平仮名および片仮名とローマ字の相互間の使用

(同一の称呼で別異の観念) |
(2)その他、社会通念上同一と認められない商標

(一定の観念を生ずる文字と図形) |
8.不使用取消審判の積極的利用
不使用取消審判はだれでも請求することができます。取消を免れるためには、取消を請求された商標権者側が、登録商標を指定商品に使っていたことを証明しなければなりません(商標権者から許諾を受けた者が使用した事実でもよく、「Magic」事件でもXは、通常使用権者が使用していたと主張しました)。
したがって、気になる他人の登録商標があったとしても、その登録商標が3年以上使われていないと思われるときは、この制度を利用して登録を取り消せば、同じ商標を自社商品に使用できるようになります。また商標は、意匠のようにいったん公知になると新規性を失って拒絶される、ということはありませんから、これを出願すれば商標権を取得できる可能性もでてきます。取消を請求された商標権者側は、実際に使用していなければ証明することができないのですから、この制度は邪魔な他人の登録商標を排除できる強力な武器となるでしょう。
万一登録商標が使用されていたとしても、指定商品中に使われていない商品はないか、使用商標が登録商標と社会通念上同一でないと認められる余地はないかなど検討してみる価値はあるのではないでしょうか。
以上
<「Magic」事件H13・6・27東京高判H12(行ケ)422> |