JPDA権利保護委員会
Vol.34「デザイン契約と民法」&「D-8デザイン保護研究会」 2012年5月28日
委員長 丸山和子(担当理事)

 

デザイン契約が、契約の元締めとなる法律である「民法」でどのように扱われているかを取り上げて、デザイナーの瑕疵担保責任、デザイナーを護る下請法、アートディレクター業務やブランドコンセプトの策定業務についてお話しが進められています。社会生活を送る上で基本的な法律である民法の中で、デザイナーが契約に向き合う姿勢に焦点が当てられています。
そして、契約で取り交わす対価及び費用については、重要なチェック項目の解説と具体的な捉え方が続きます。前回Vol.33でお届けした「デザイン契約で気をつける点」の続編です。

活動報告は今期最後の「第5回D-8デザイン保護研究会議事録」概要です。
議事に先立ち、特許庁からの情報提供として昨年度実施した「デザインの契約に関する調査研究」の概要説明を受けましたことの報告もあります。

 

情報発信
 

「デザイン契約で気をつける点」についてのアドバイス(その2)
特許業務法人レガート知財事務所 知的財産コンサルタント・弁理士 峯 唯夫

前号(その1)で、仕事の内容をしっかりと決めよう、という話をしました。今回は、皆さんが取り交わす契約が、民法(契約の元締めとなる法律)でどのように扱われているかということを中心にお話しします。

1.契約のタイプ
一般に、企業(依頼者)とデザイナーとで取り交わす契約には、「業務委託契約」というタイトルが付けられていると思います。
しかしながら、契約の基本的な事項を定めている「民法」には「業務委託契約」という名の契約はありません。
民法の規定によれば、「請負契約」か「(準)委任契約」の何れかということになります。

両者の違いをざっくりと言うと、請負契約は「仕事の完成」を目的とした契約であり、「準委任契約」は一定の成果に向けて業務を誠実に実行するということを目的とした契約です。
企業とデザイナーとの契約は一部の例外を除き、「請負契約」と考えられています。

(1)請負契約
請負契約は、デザイナーがデザインを完成することを、依頼者が報酬を支払うことを約束することによって成立します(民法633条)。

請負契約では、請負人(デザイナー)は「瑕疵担保責任」を負うものとされています(634条)。瑕疵担保責任というのは、デザイナーが提供したデザインに傷(これを「瑕疵」といいます。)があるときに責任を持てということです。
例えば発注者の指定した条件(デザイン与件)を満たしていない場合、それを修正しなければならない、ということです。そして民法では、デザインに瑕疵があり、「契約をした目的を達することができない場合」(要は「全く役に立たない」ということ。)は契約を解除できると決められています(635条)。しかし、この点は後で説明する「下請法」で修正されています。

民法の規定によれば、瑕疵担保責任を負う範囲はデザイナーが「無償」でデザインを修正しなければならない。しかし、その範囲でなければ修正依頼に対しては「追加の対価」を要求できる、ということになります。
この「瑕疵担保責任」は、「仕事の目的物の瑕疵が注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じたときは、適用しない。」(636条)とされています。したがって、前回お話しした「情報の提供」において、デザインの前提として発注者から提供される情報において、具体的に何がデザイナーに要求されているか(デザイン与件)を特定することが重要です。

なお、瑕疵担保責任を負う期間は1年間です。発注者は、1年経過した後に「駄目だから修正しろ」ということはできません(637条)。また、「請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。」(641条)という規定はありますが、デザイナーからの契約解除は規定されていません。必要に応じ契約書に書き込む必要があります。


イラスト:徳岡健/権利保護委員

(2)下請法(下請代金支払遅延等防止法)
デザイン制作は、「情報成果物作成委託」として下請法の対象となっています。
この法律では、以下の事項を規定し、デザイナーを保護しています。

〈1〉代金の支払いは仕事の完成後60日以内とすること。
〈2〉仕事の内容、対価の額、支払期日を記載した書面を交付すること。
   口約束ではなく、書面を作れ、ということです
〈3〉デザイナーの責に帰すべき理由がないのに,下請事業者の給付の受領を拒むこと。

〈3〉の具体例として、運用基準に以下の場合が規定されています。

ア)検査基準を恣意的に厳しくして、委託内容と異なる又は瑕疵等があるとする場合
イ)取引の過程において、委託内容について下請事業者が提案し、確認を求めたところ、親事業者が了承したので、下請事業者が当該内容に基づき、製造等を行ったにもかかわらず、給付内容が委託内容と異なるとする場合

この規定により、瑕疵担保責任が軽減されています。
上記ア)に関してはデザイン与件を明確にすること
上記イ)に関しては、デザインの過程において、適宜発注者とデザイナーとが確認を取り合うことが必要です。

したがって、契約書において「デザイン与件」及び「いつ確認を取り合うのか」を定めることが必要です。発注者、デザイナー共に、それぞれの利益を護るために必要な取り決めです。

知的財産に関しては、デザイナーに帰属する意匠登録を受ける権利や著作権を「給付の内容」に含んで親事業者(発注者)に譲渡させるのであれば、書面に記載する必要があります(公正取引委員会Q&A)。
権利の扱いは次回説明します。

(3)(準)委任契約
民法では「法律事務の委任」(弁護士や弁理士への委任)を「委任契約」とし、それ以外は「準委任契約」としていますが、規定内容は同じです。そこで「(準)委任契約」と書いた次第です。
委任契約は、依頼者がデザイナーにデザインをすることを相手方に委託し、デザイナーがこれを承諾することによって成立します(643条)。
「仕事の完成」「報酬の支払い」は要件ではありません。
複数のデザインを統括するアートディレクター業務やブランドコンセプトの策定業務など依頼者が成果を指定できない業務が該当します。例えば、ブランドコンセプトの策定であれば、依頼者は策定されるべきブランドコンセプトが分からないからデザイナーに委任するのですから、成果について指示することはできません。

「仕事の完成」は要件ではありませんから(依頼者は成果を指定できないのですから)、「瑕疵担保責任」はありません。それに代えて、「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。」(644条)とされています。要は、受任者(デザイナー)は、依頼者の意思を受け止めて依頼者の意思に沿うようにしっかりと仕事をせよ、ということです。

しっかりと仕事をした成果を提供すれば、「修正」の要求を受けることはありません。ただし、依頼者から要求されたときは処理状況を報告しなければならず(645条)、当事者双方はいつでも契約を解除することができます(651条)

2.対価及び費用(諸経費)
(1)対価の支払い方法
対価の支払い方法としては、概ね以下のパターンがあります。

〈1〉納品時に一括
〈2〉分割(着手時・中間時・納品時)
〈3〉ロイヤルティ
〈4〉納品時+ロイヤルティ

いずれを採用するかは、発注者とデザイナーの個別事情によるのであって、いずれが最適ということはできません。
〈1〉〈2〉はローリスク・ローリターン、〈3〉はハイリスク・ハイリターン、〈4〉が中間、ということでしょう。

ロイヤルティで契約する場合、出荷価格ベースか、上代価格ベースかで大きな開きが生じます。
明確にしておく必要があります。また、発注者からの報告を下に計算するのですから、その信憑性を確認する手段(帳簿の確認)も規定しなければなりません。

(2)費用
〈1〉費用の範囲
デザインの費用には、大きく分けると「作業実費」と「デザイン料」があり、前者には交通費・宿泊費・出張日当・モック制作などの材料費、場合によっては商標調査、アンケートやグループインタビューなどの調査費があります。これらの内、何が費用に含まれ何が含まれないのか、また費用として認められるための条件を決めておく必要があります。
例えば、交通費は事前に発注者の了承を得るとか、何キロ以上を対象とするとか、何キロ以上は特急に乗れるとか。

〈2〉費用の請求方法・費用の支払時期
作業実費とデザイン料とに分けて規定する必要があります。支払時期に関しては下請法の60日以内という枠があります。

最終回(その3)は、成果物の権利としての扱いについてお話しします

 

活動報告
 

2011年度第5回D-8デザイン保護研究会
2012年4月19日(木)18:30〜21:30
場所:JAGDA(日本グラフィックデザイナー協会)東京ミッドタウンタワー5F会議室
出席者(順不同・敬称略)
参加委員:SDA玉木俊和、藤井将之(委員長)/JJDA伊藤嘉晃、田中治彦/JCDA石原実/JAGDA近藤直樹/
JIDA安藤孚、堀越敏晴/JID秋山修治/DSA花岡豊/JPDA時田秀久、丸山和子(副委員長)
オブザーバー:(社)日本デザイン保護協会専務理事 関口 剛

議事に先立ち、特許庁からの情報提供として昨年度実施したデザインの契約に関する調査研究の概要説明があり、その後に研究会委員との質疑応答が行われました。

平成23年度 特許庁大学知財研究推進事業
「デザイン産学連携の多様性を踏まえた契約の在り方に関する研究報告書」
平成24年2月株式会社三菱総合研究所

※この報告書は特許庁HPからダウンロードできます。
http://www.jpo.go.jp/sesaku/daigaku_shien_03.htm#11design

研究の概要
■-デザイン産学連携を円滑に進めるために-
デザイン分野の産学連携は、大学ならではの強みを発揮するデザイン領域等において活発に行われているが、知的財産の取り扱いを中心とした契約に多くの課題が有ることも指摘されている。現状では特許が念頭におかれ、デザイン創作の特性に対応していない契約内容も多く、加えて各大学での契約や手続が独自の取り決めで行われていて相互の統一がとれていない等々の問題もある。
デザイン産学連携を円滑に実施するために、大学の多様なデザインの創作実態を踏まえて現行の契約内容を分析し、産学双方が公平に利益を受けられる契約の在り方を提示する事を目的として本研究を実施し、分析結果から導き出された契約における留意点等を整理したうえで、デザイン産学連携の典型例を7つの類型に分け、契約書文面例としてひな型を作成した。

参加者(敬称略)
特許庁意匠課 藤澤崇彦 /特許庁意匠課 小林佑二/ 特許庁企画調査課 菊地拓哉
経済産業省クリエイティブ産業課デザイン政策室 外山雅暁


* *

その後、以下の議題が協議・検討されました。議事録は概要です。
議長:前半 SDA藤井将之/後半 JPDA丸山和子

[議題]

1.D-8創作証各団体の試験運用状況報告
8団体の各委員から現状の報告があり、5月・6月の総会を節目として更に進める周知計画の内容が各協会毎に述べられた。

2.D-8内外に向けての周知方法の続・検討

■D-8全体としてのプローモーション
(1)共通に使用できる配布資料の制作を5月20日までに完成させ、総会時に配布出来るようにする。
(2)利用できる媒体候補の選択
周知対象を、試験運用機関の使用可能者であるD-8会員だけに絞らず、本来の目的に合わせて広く一般にも範囲を広げる事を確認する。

3.D-8創作証ユーザー登録を増やしていくための対策

登録者の特典の設定を検討していくことを決める。

4.次期活動方向の協議

■D-8ウェブ環境整備について
D-8のウェブサイトはトップページだけでも最低限必要ということで一致。
D-8代表者会議で提案し、予算が確定したら出来るだけ早く手がけることとする。
■勉強会の企画の具体化のため、興味がある項目が話し合われた。
(1)「意匠法の画面デザイン保護拡充について」→次回の冒頭勉強会テーマとする事に決定。講師の依頼と実施について進める。
(2)無審査登録制度について、その是非・問題点を研究会として向き合う。
(3)「産学連携による契約、契約書の雛形→4/19の冒頭での概要の説明と質疑応答を踏まえて、興味の有る部分の絞り込みをして、機会を作っての勉強会を予定する。
(4)国外の知財事情の勉強会の企画を進める。
(5)研究会メンバーだけの勉強会とは別に、D-8会員全体を対象とする知財講習会の検討。

[報告事項]
公益社団法人に移行
・JJDA (公益社団法人)日本ジュエリーデザイナー協会
・SDA  (公益社団法人)日本サインデザイン協会

以上

<次回となる2012年度1回は6月21日(木)18:30〜21:30 JAGDA会議室の予定。>
議事録作成・概要整理:JPDA丸山

 

★権利保護委員会開催★
第七回 2012年4月19日(木)21:00〜22:00
第八回 2012年5月17日(木)18:30〜20:00

 

  引き続きご意見、ご要望等は下記アドレスで受け付けています。
MAIL:info@jpda.or.jp
 

最新号:Vol.42「D-8創作証って何?」2013年01月25日
バックナンバー:
    Vol.30〜「取り消される商標」、「D-8創作証」(2012年2月〜)
    Vol.18〜29 「JPDA知財塾」、「デザイン業務で学ぶ契約」ほか(2011年1月〜12月)
    Vol.8〜17「特許庁意匠課 見学ツアー」、「デザイン保護ハンドブック」ほか(2010年2月〜12月)
    Vol.1〜7「デザイン保護」、「著作権と意匠権」ほか(2009年7月〜12月)