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CROSSINGー創造性の交差

JPDA 東京デザイン会議 2019

開催日:2019年1月25日(金)
会 場:東洋インキ株式会社会議室(東京・京橋エドグラン29F)
出席者数:112名

講師:田川欣哉氏(株式会社Takram代表)
   諏訪綾子氏(food creation主宰)
   信藤洋二氏(株式会社資生堂ECD)
ファシリテーター:伊藤 透氏(日本パッケージデザイン協会理事長)


今回のデザイン会議のテーマは、「CROSSING―創造性の交差」。
「新しい交差がデザインの今と未来を映し出す」というコンセプトのもと、3名の異なる分野のゲストを迎え、「デザインとエンジニアリング」「食とアート」「美と企業文化」、それぞれの個性、経験、スキル、哲学、そして創造性、その交差からデザインの今と未来を映し出すセッションとなりました。
前半は、3名の講師から、それぞれの活動とそれを始めるに至ったきっかけや思いを語っていただきました。


田川欣哉氏  株式会社Takram代表、ディレクター/デザインエンジニア

プロダクト・サービスからブランドまで、テクノロジーとデザインの幅広い分野に精通するデザインエンジニア。主なプロジェクトに、トヨタ自動車「e-Palette Concept」コンセプトムービーのディレクション、日本政府のビッグデータビジュアライゼーションシステム「RESAS」のプロトタイピング、NHK Eテレ「ミミクリーズ」のアートディレクションなどがある。グッドデザイン賞、Red Dot Design Award、ニューヨーク近代美術館パーマネントコレクションなど受賞多数。東京大学工学部卒業。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修士課程修了。経済産業省「産業競争力とデザインを考える研究会」「産業構造審譲会知的財産分科会」などの委員を務める。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート客員教授•名誉フェロー。

大学では機械工学を専攻した田川さん。学生時代に「何のためにモノをつくるのか」という問いと向き合った結果、「自分たちの作ったものを一般の方々が使う環境を見ていると、どうしても技術だけではできないことがたくさんある」と気づいたと言います。学生時代にデザインの現場と触れ合う機会も多く、工学部で受けていた教育とはまったく異なることが行われていることに気づくと同時に、エンジニアリング側が完全に見落としていることがかなり含まれていることに大きな衝撃を受けました。当時、「一つのことを極めるのも相当難しいのだからどちらかに絞りなさい」と先輩諸氏からアドバイスもされたそうですが、大学卒業後にデザインの勉強を始め、デザイン事務所を経て10年ほど前にTakramを創設。現在、Takramにはデザイン関連のスタッフは40名ほどで仕事場は東京とロンドンの2か所。「僕の身体の半分はエンジニアリング、もう半分はデザインで出来ている」という田川さんは、自らをデザインエンジニアと称します。


諏訪綾子氏  アーティスト、food creation主宰

石川県生まれ。金沢美術工芸大学卒業後、2006年よりfood creationの活動を開始、主宰を務める。2008年に金沢21世紀美術館で初の個展「食欲のデザイン展 感覚であじわう感情のテイスト」を開催。現在までに東京・福岡・シンガポール・パリ・ホンコン・台北・ベルリン・バルセロナなど国内外で、パフオーマンス「ゲリラレストラン」やディナーエクスペリエンス「Journey on. the table」、フードインスタレーションなどを発表している。2014-15年には金沢21世紀美術館開館10周年記念展覧会「好奇心のあじわい 好奇心のミュージアム」を東京大学総合研究博物館と共に開催。人間の本能的な欲望、好奇心、進化をテーマにした食の表現を行い、美食でもグルメでもない、栄養源でもエネルギー源でもない、新たな食の価値を提案している。

フードアーティストの諏訪さん、食にまつわる表現活動を精力的に行っています。「人は食べることは生きることとして毎日繰り返しています。では“あじわう”とはなにかと言えば、私は進化することだと思います。“あじわう”には味覚だけでなく、目や匂い、触感や音などいろいろなあじわい方があります。それが食べ物でなかったとしても、全神経を集中し、深く体感することは“あじわう”こと、その行為は私たち自身の感覚をさらに鋭くするという進化につながると考えています。ですから、人間の本能的な欲望や好奇心、感情や思考、空間や時間を食材と共に調理して進化につながるようなあじわいをつくりたいと思って活動しています」。たとえば、元造幣所に、夜の美術館に、市場の只中に、世界各地にゲリラ的に現れる「ゲリラレストラン」は諏訪さんが表現するさまざまなテイストをフルコースであじわうフードパフォーマンス。他にも展覧会や写真などのフードインスタレーションでも新たな食の価値を表現し続けています。


信藤洋二氏  株式会社資生堂エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター

東京都生まれ。東京藝術大学大学院構成デザイン研究室修了。現職は(株)資生堂クリエイティブ本部デザインエクセレンスユニットECD。2013年にCDを担当した資生堂銀座ビルを拠点に、プロダクト、スペース、グラフィック、コーポレートなどのクリエイティプを手がけている。2017年より社会課題やイノベーションにデザイナー主導で取り組む「Universal Beauty Design Project」をスタート。多摩美術大学プロダクトデザイン非常勤講師、東京アートディレクターズクラブ会員、(公社)日本パッケージデザイン協会理事、(公社)日本グラフィックデザイナー協会会員、(社)日本空間デザイン協会会員。

資生堂でパッケージや空間、ブランドなど多岐にわたるデザインに携わってきた信藤さん。現在は、資生堂のデザイン分野を横断する“デザインエクセレンスユニット”のエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターとして活躍しています。「このユニットの大きな活動目標は、デザインがブランディングとイノベーションに大きく寄与していくこと」「横断するキーワードとしてクラフトを掲げ、そこに大きな可能性を感じています」。100年前に意匠部を創設した福原信三さんも工芸美術の重要性を語っていたそうです。工芸が日本人の感性や美意識につながっているとの観点から「工芸や民芸において“見る”とは、即ち触れることではないか」と考え、体験や体感を持ち込みながらプロダクトやディスプレイ、ブランディングに取り組んでいます。「資生堂は創業時から化粧にまつわる美しい豊かな文化をつくっているという自負を持って活動してきました。クラフト、あるいは日本の文化を世界にしっかり発信していこうと模索しています」。


後半は、JPDA伊藤理事長の司会でクロストーク。前半に出ていた「クラフト」「食」「体験」などのワードについてトークが進む中、話はデジタルやテクノロジーと、リアルな人間の感覚との関係へと広がります。田川さんは「物理」という言葉を使って「デジタルではないもの」を語り、デジタル側にいっていた大きな流れが、揺り戻しのように物理側に振れてきていると説明します。身体性や人の心を揺さぶるといった物理とデジタルテクノロジーの再構築、そこがチャレンジの場になっていて、多くのデザイナーがテクノロジーの現場に入ってきているとも。諏訪さんは、日常化したデジタルテクノロジーの世で、人間元来の身体的な受容や知覚が変化していくことへの不安と期待の一方、「使われていない感覚や神経を覚醒させるためにテクノロジーが手助けするような形で」新たな“あじわい方”の発見にチャレンジしているといいます。信藤さんは、クラフトとテクノロジーの関係で「テクノロジーをどう翻訳して人間のためのものにするか」「その課題にデザイナーが期待されている」と語ります。

「デザインの末来、あるいは未来のデザイン」について・・・

田川さん「変わり続けているという状態自体が未来」「デザイナーはいかに自分自身も変わり続けられるか」「自分と社会との関係性によって未来は全然違うのだということを広い視野で考える方がいい」・・・
諏訪さん「だんだんと正解のない世界になってきていて、正解がないことにみんなが気付き始めている」「何かを社会に提案していく人たちは、それぞれが(自身も)自分なりの新しい答えを出していく」・・・
信藤さん「人が幸せでいられるようにするには、やはり人間の知恵がいる」「感性という言葉を人間の感覚のことだけでなく、環境や自然などについても感覚的に捉えられるところまで視座を広げなければいけない」・・・

クロストークの話題は組織や経営、デザイナー像にも及びました。ここでは全てをご紹介できませんでしたが、領域もコンセプトも異なるゲスト3名のトークは、時に洒脱でユニークな応酬を差し挟みつつ、三者三様の個性が絡み合う大変興味深いものでした。
今回のデザイン会議では、トークの後半で会場参加型のプログラムも用意され、来場者とともに「未来を予見させるデザイン」について語り合う時間も設けられました。参加者がお互いに「何を見て未来を予見しているのか」を交換し合える貴重な機会となりました。

東京デザイン会議2019終了後は、余韻が冷めやらぬ中、GINTO銀座店に移動して新年交流会、新入会員紹介を含めさらに活発な情報交換・交流が行われました。

担当委員会:国内交流委員会、東日本委員会

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