Vol.6 カリフォルニアの電力源と水源

一時期ニュースの常連だったカリフォルニアの電力危機は、9月11日以降ほとんど聞かれなくなりました。ロサンゼルスは1年を通して気候が安定していてすごしやすいとはいえ、もともとは砂漠。近年住宅街が拡大している郊外では、クーラーなしでは夏を越せない場所も少なくありません。電力消費が多くなる夏季は他の州から電力供給を受けるほど需要が高まります。電力需要は年々増えるのに発電施設は一向に増えず、需要と供給のバランスが崩れる一方。カリフォルニア州は環境保護の意識が強く、環境への負荷が少ないが高コストである風力や太陽光による発電施設への依存度が高いのも、その理由の一つのようです。

その風力発電施設がパームスプリングス郊外にあります。ロサンゼルスからフリーウェイを東へ1時間ほど走ると、なだらかな山あいの陰からまず数十の巨大な風車が姿を現します。やや車のスピードを緩め、鈍い音を立てて回る風車を眺めながらしばらく進んでいると、数十なんてとんでもない。ぱっと開けた視界には、本当に「無数」という言葉はこういうときに使用するものといわんばかりの数の風車が、フリーウェイの左右そして奥の方まで延々と見渡す限り立ち並んでいました。

ひとつひとつの風車が、目で追えるくらいの速いとも遅いとも言えないスピードで三枚羽根を回しており、まるで無数の虫が木々に止まったまま羽を細かくばたつかせているようで、しばらく眺めていると身体中がかゆくなってきます。環境への負荷が少ないとは言え、完璧な人工物を広大な土地いっぱいに建てまくり、視覚的には十分に環境破壊しているように思えてしまいます。車から降りて見上げると1本の風車が何と巨大なことか。そしてその先端についている大きな羽根を回し続ける風の力も凄まじい。山に囲まれたこの砂漠には、立っているのがつらくなるほどの強風が常に吹き下ろされてきます。ここに風力発電ができる理由をまさに肌で感じ取ることができます。

雨の少ないカリフォルニアは水源の確保も大きな問題です。人間の生活水などだけでなく、緑が緑として生きながらえているのも、一定の時刻になるとプシュッ、プシュッとそこらじゅうで散水を始めるスプリンクラーのおかげです。先日、カリフォルニアの水源のひとつでもある、コロラド川をせきとめて造られたフーバーダムを訪れる機会がありました。ネバダとアリゾナの州境に位置するフーバーダムはネオンの光止まないラスベガスへ電力を供給するとともに、ロサンゼルスへも水道水を供給しています。

1930年代の建造というこのダムは高さが200m以上もあります。ダムの上から美しいおネエ様が唾をはいてその落下する行方を見ておりました。約70年前にこのような巨大なダムを建造する力を、アメリカはどうやって持ち得たのでしょうか。そしてダムにせきとめられてできたミード湖も人造湖として世界最大級。飛行機から見ていると、赤茶けた大地が果てしなく続くこの地に大きな水面が突如として現れ、青々とした空をくっきりと映し出すその光景は、ほっとするようでもあり、異様でもあります。

このダムの谷底に発電所があります。発電された電気を送電する電線が、はるか下の谷底の発電所から崖をほぼ垂直に登ってきます。崖の上では巨大な鉄塔が斜めに建ってそれを受け、今度は水平方向に電線を次の鉄塔に渡しています。いくつも立ち並ぶ斜めの鉄塔は、やはり環境に馴染むことなどまるでお構いなしで、むしろ強引に自然に立ち向かっているように見えます。斜めになりながら崖っぷちで踏ん張っているこの鉄塔の姿を見ていると、自然に体に力が入ってしまいます。

パームスプリングス郊外の風車やフーバーダムを観たとき、最初はまずその数や巨大さに度肝を抜かれ、次に自然との調和などまるで意識されない風景にちょっとした日本人的違和感を感じました。しかし自分がその地を車で移動したり歩いたりしながら広大で過酷な自然を肌で感じていると、その中で人間が生きていくために造られたこれらの建造物がだんだんと誇らしげに思えてくるのです。アメリカ人にとってこうした建造物は、有り余る強大な力を持った大自然を人間が技術と努力で克服してきたシンボルであるのです。そのシンボルたちが、自然に迎合するのでなく自然に対峙し立ち向かう姿を見て、人々は勇気を与えられてきたのかもしれません。

9月11日以降フーバーダムもしばらくの間、新たなテロの標的になる可能性があるとして見学ルートが閉鎖されていました。それが多くの国民の生活を支えているだけでなく、アメリカの象徴であり、人々の精神のよりどころになっているものと自認しているからこそだったでしょう。