Vol. 10 ラリーモンキー

今年は狂ったようにメジャーリーグ観戦に出かけました。ここロサンゼルスは、地元ドジャースにノモ、イシイが揃い、アナハイムには同じリーグのイチローがやって来るというオイシイ土地柄。車で気軽に行けるこの二つの球場では飽きたらず、サンディエゴ、アリゾナ、サンフランシスコ、オークランド、シアトルと西海岸の球場をほとんど制覇しました。会社の仲間達から、「おまえが今シーズン、球場へ行った回数は俺がこれまでに行った回数すべて足したのより多い」と言われ、「今度の週末の予定は?」と聞かれて「ベースボール!」と答えるたびに「クレージー!」と返されました。

シーズン終了ぎりぎりまでワイルドカード争いに残っていたドジャースとマリナーズ。この2チームがワールドシリーズで対決することを夢見て、9月は両チームの勝敗に一喜一憂の毎日でした。私はまだ何も決まっていないうちから発売開始されたドジャースのプレーオフのチケットを入手しましたが、結局、ドジャースもマリナーズも力尽き、ジャイアンツとエンジェルスにワイルドカードでのプレーオフ出場権を譲ることになりました。その瞬間、私の熱いメジャーシーズンは終わった…と、一気に気が抜けた気分でした。

しかし、エンジェルスがディビジョンシリーズで、あのヤンキース相手に一歩も引けを取らず、むしろ優勢に立つあたりから、何やらいても立ってもいられないようになってきました。シーズン中はマリナーズとの差を広げるばかりのエンジェルスは眼の上のタンコブでした。しかし車でわずか30分程度で行ける球場で、リーグチャンピオンシップ、さらにはワールドシリーズが行われるかもしれない、そして、こんなことは私がここに住んでいるうちに2度と起こらないかもしれない…そう思った瞬間、エンジェルスのリーグチャンピオンシリーズのチケットをゲットしておりました。通常の約2倍の値段はしましたが、ヤンキースを撃破した後のツインズとのリーグチャンピオンシップ第4戦を観戦することができました。

球場はレギュラーシーズンの試合とはまったく異なる雰囲気に包まれていました。今年からユニフォームもロゴも赤を基調とした昔のシンプルなものに戻ったエンジェルス。スタンドはまるでワールドカップの韓国の試合のスタンドのように真っ赤。皆、赤い帽子に赤いシャツ、手には入り口で配られる赤いチアースティック。空気で膨らませた2本のスティックをたたいて音を出し応援するのです。客席はもちろん超満員。こんなぎっしり満員のエジソン・フィールドは見たことありません。エンジェルスにちなんで、天使の輪を頭につけた女性、上半身裸に天使の羽根を背負って走り回る若者達、マスコットのラリーモンキーを頭にくくる男の子、全身サルの着ぐるみで踊りまくるものなどなど、客席はサルと天使のオンパレード。エンジェルスを全身で表現する仮装大会のようになっています。

初回から試合終了まで観客がこんなに試合に集中しているのもカンゲキです。いつもなら中盤になって試合に飽きると、試合の流れとは関係なくウェーブを始め、ビーチボールを飛ばすなど、客席内で勝手に遊び始めるのですが、エンジェルスのピッチャーが投げた球がストライクになれば大拍手、エンジェルスのバッターが1本ヒットを打とうもんなら、全員総立ちとなって、その回は2度と座ることができなくなります。立ったり座ったりを繰り返しているうち、買ってきたビールをぶちまけてあたりをビール臭くした私は、最後まで周囲から冷ややかな目で見られておりました。

相手のツインズはミネソタのチーム。飛行機でも4時間はかかる彼方の地。ましてやこの真っ赤に染まった観客席の中で、ツインズを応援するものなどいるわけがないと思ったら、中にはいるんです。それもツインズのユニフォームを着て、ツインズがヒットを打てば自分達だけが立ち上がって周囲に「どーだー」とアピールする勇気あるファンが。私はイチロー見たさによくアナハイムへ来ましたが、とてもこんなことする気になれません。案の定、彼らがアピールするたび、その数列後ろのエンジェルスファンが彼らめがけてピーナツを投げては知らんふり。客席の通路には警官がたくさん配備されており、そのうちの一人に制止されていましたが、その警官のトランシーバーにはハンバーガーチェーン「ジャック・イン・ザ・ボックス」が配っているエンジェルスのアンテナボールが誇らしげに付いていました。エンジェルスはこの日の試合にも勝利しましたが、まだリーグ優勝が決まったわけではないのに、帰りの道路はクラクションを鳴らし、チアースティックを叩きながら走る車で大渋滞でした。

結局、翌日の試合でリーグ優勝を果たしたエンジェルス。いよいよアナハイムでのワールドシリーズ開催が決定しました。ワールドシリーズのチケットはリーグ優勝が決まる数日前に発売開始。当日、発売時間を待って、インターネット購入を試みてみたのですが、唯一$100以下の外野席$60はすでに完売。この席は通常$8です。他の席はまだ空きがありましたが、$110〜$175と通常の5倍以上。ワールドシリーズになるとチケットの値段が急騰します。さすがに躊躇してしまいました。そしてエンジェルスが優勝を決める頃にはもうチケットはソールドアウト。私の会社にはロサンゼルス育ちなのになぜかジャイアンツファンがいて、彼も私もチケットブローカーのサイトをあたってみましたが、もっとも安くて$400、もっとも高い席は、なんと$4,000以上。桁を見間違えているのかと思いました。

ワイルドカード同士の対決となったジャイアンツとのワールドシリーズ。互いに一歩も譲らない熱い戦いをテレビで見るにつけ、$110の席でも買っておけば…と、私の頭の中は「たら」「れば」の嵐が吹き荒れました。LAのテレビは朝からエンジェルス一色、近所のスポーツバーは毎晩大騒ぎ、サンフランシスコで試合があるときはアナハイムの球場の隣にあるアリーナが開放され大画面を見ながらの応援。カリフォルニア対決となって他州はドッチラケだったようですが、得点の多さ、逆転に次ぐ逆転で本当に面白いシリーズでした。そしてとうとう初制覇を果たしてしまったエンジェルス。思いもかけない地元チームの快進撃にアナハイムは狂喜乱舞でした。これでようやく私のメジャーリーグシーズンが本当に終了。しばらくは安らかな週末をすごせそうです。