Vol. 13 ビジネスカジュアル

この時期、日本から出張者が来るたび、LAのさわやかな夏を羨ましがられます。私自身もつい数年前まで、蒸し暑いさ中にネクタイを締め上着を抱え、吹き出る汗を拭きながら地下鉄に乗ってクライアントへ通 っていたのが別世界のことのようです。昨年、真夏のニューオーリンズへ行ったとき、凄まじい湿度に数時間歩いてはホテルへ戻ってシャワーを浴び、着替えてはまた出掛けることを繰り返し、湿気のない夏がアメリカ全土のものでない貴重なものであることを実感しました。

そんな夏のあるとき、我が社のアメリカ人デザイナーが初めて日本出張することになりました。出発当日になって、日本での会議参加時にジャケットは必要かと電話で聞いてきました。ホントはたいがい皆ジャケット着てるんだけどと思いながら、カリフォルニアンにこの時期の日本で上着を着る苦痛を強要するのはあまりに酷と、ついつい「要らないんじゃない」と答えてしまいました。

こちらでは一般の会社でも服装はいたってカジュアル。タイ、ジャケットなんてめったにお目にかかりません。ましてやスーツなんて着てるのはどこかのセールスマンくらいです。ビジネスの中心地であるダウンタウンでは違うのかもしまれませんが、オフィスも郊外に散らばっているので、ダウンタウンに勤める人の割合は他の都市より圧倒的に少ないと思います。郊外に立地し、それもデザインオフィスでである我が社など、輪をかけてどカジュアル。ジーンズ、テニスシューズ(こちらではスニーカーとはあまり言わない)は当たり前、季節を問わずTシャツ短パンで通 すのもいます。

クライアントとのミーティングの際はタイをするようにしていますが、朝はいつものどカジュアルで出勤し、ミーティング間際にそそくさとレストルームに駆け込み、襟付きのシャツ、スラックス、タイに着替え、終わればまた元のどカジュアルに変身するのです。先日、我が社にクライアントを呼んでミーティングをしたとき、まだクライアントがいるのに、会議終了後すぐにTシャツ短パンに着替え、クライアントと世間話をしているヤツがいたりして。彼らにとっては、クライアントと会う際に身なりを整えるというより、仕事の本番用舞台衣装ということなんでしょう。

我々のメインクライアントも、さすがに我が社ほどくだけてはおりませんが、社内でスーツどころかタイ、ジャケットも見かけません。聞けばそれなりにドレスコードがあるとのこと。「ビジネスカジュアル」と称される、襟付シャツ、綿パン、革靴が基本で、Tシャツ、ジーンズ、短パンなどは不可のようです。日本でもときどき見かけるカジュアルフライデーが毎日になっている感じです。

このクライアントは年1回、全米から1000人以上のディーラーをラスベガスに招いて新商品を発表するショーを行います。場所がラスベガスということもあり、出席するディーラーはとってもカジュアル。家族も同伴で半分家族旅行も兼ねています。
クライアントも壇上でプレゼンテーションやスピーチを行う人のみスーツ姿、他のスタッフは会社名の入ったシャツを着ますが、協力会社として出席する我々は「ビジネスカジュアルで」と言われます。我が社の日本のグループ会社からも毎年何人かこのショーに出席するので、事前に「ビジネスカジュアル」を説明するのですが、どっちともつかないこの表現はどうもなかなか理解しにくいようだし、普段着でクライアン トに会うのは何とも落ち着かない様子です。

私も個人的によく悩まされるのがレストランのドレスコード。街全体がカジュアルなLAでは、ジャケットまで要求されるのは相当高級なレストランだけですが、ちょっとしたところは何とも曖昧な表現が多いのです。カジュアルベースの表現では、ナイスカジュアル、スマートカジュアル、アップスケールカジュアルなど。フォーマルベースの表現ではセミフォーマル、セミドレッシーなどなど。ロサンゼルスは食不毛の地ではありますが、いろいろなレストランを探訪するのが私の楽しみの一つ。私の目当ては料理でありドレスアップして出かけることではないので、ほんとは楽な格好で食事も楽しみたいのですが、一応Tシャツ、ジーンズ、短パンは避け無難な格好をして出かけます。でも店内に入ると結構どカジュアルが多かったりするのがロサンゼルス。
こういうのは行ってみないとなかなかわからないものです。

こちらは学校に制服というものがないので、自分の身なりは自分で決めるというのが子供の頃から身についているんではないでしょうか。押しつけというものがないし、他に合わせるとか流行を気にするということがほとんど感じられない。日本では「最近こういうファッションが流行っている」というようなニュースを季節が変わるたびに見かけた気がしますが、こちらでそんなのはほとんど聞かないのです。構わない人はまるで構わない。ブランドモノなんてホントに一握りの人たちの世界。ただアウトレットのブランドショップでは必ず大きな紙袋を下げた日本人にお目にかかります。
そういえば自分も若い頃、バーゲンを駆け回っていたことがあったっけなぁなんて思い出し、ついついニヤニヤ。今はメジャーリーグの各球場を回るたびに買ってくる各チームのTシャツが私の普段着となり、一人でアメリカ気分に浸りながら仕事をする毎日です。