Vol.10 纏足のナゾ
「君は足を小さくされる前に、アメリカまで逃げてこられてよかったね。」ある日突然会社のボスに言われ、何のことか解らず「?」という顔をしていると、「冗談、冗談。でも昔日本では、女性は小さい足がチャーミングだから、Bound Feetにしたんでしょ?そんな時代に生まれなくてよかったね。」Bound Feetとは纏足のこと。そこでそれは日本ではなく中国の古い習慣で、娘の良縁を願う母親が、激痛に泣き叫ぶ娘に心をオニにして行ったこと、またチャームのためだけでなく女性がちゃんと歩けない、つまり逃げられないようにする目的もあったなど、昔読んだ本から知っていることを説明しました。私の説明に「えー、そんなザンコクなことだったの」と皆大驚き。「まーったくアメリカ人って、英語しか喋れない上に、自分の国のこと以外は何も知らないんだから、困りますよねー」と得意げに答えた私。
さてその翌日カフェにボーッと座っていると、となりのテーブルにゲイのグループが入ってきました。ゲイらしくキャーキャー賑やかに喋っていましたが、そんなことここニューヨークでは珍しくも何ともないので、特別注意も払わず目の前にあるフローズンマルガリータをズルズルとすすっていると、中の一人が「でね、そのジャパニーズの歩き方っていうのがー」、というので私の耳は突然ダンボ。「何の話だろう」とそちらを見ると、二本の指先でテーブルをちょちょ、ちょんちょんと叩き、「こーんなふうだったのよォ。」すると別の一人が、「アンタ、それって纏足してるからよ」「エーッ、纏足ってチャイニーズじゃないの?」前の日にちょうど会社でそんな話をしていたので、このおネエさん達の会話をしばし盗み聞き。
「あらだってサ、ゲイシャガールズは纏足してたのよ」
「違うわよ。絶対チャイニーズよ」
「でもアタシ『メモリーオブゲイシャ(二年ほど前に、アメリカでベストセラーになった本。映画化されると聞いたけど、一体どうなったのでしょう?)』読んだわよ。ゲイシャは纏足していたのよ」
私もメモリーオブゲイシャは買ったけど、英語なもんで途中で読むのが面倒クサクなり、1/3くらいでザセツ。そ、そんな重要な事実が、後半に描かれていたとは...でもどう考えたって、私の知っている限りでは、纏足は中国のもの。そんなバカな。よっぽどとなりに移って「それは間違っています。ホントーは...」と説明しようかと思いましたが、何しろ絵に描いたようなウルサそうなおネエさん達だったので、そんなことしたら「小娘ッ、おだまりッ!」などと怒られそうなので、無視(実際は向こうのほうが、私より遥かに年下だと思う)。そしてこの四人は、山盛りのフライドチキンをモリモリ食べながら(何だかんだ言っても男性なので、食欲旺盛)、自分達が知っている限りのゲイシャガールズと纏足に関する知識を交換し、最後には「アタシ達はゲイシャガールズじゃなくて、ゲイガールズよネッ」などとしょーもないことを言い、くねくねと去っていきました。
「ホントーに纏足は、中国だけのものだったのか?」昨日はオフィスであんなにも自信たっぷりに説明していた私が、いきなり自信喪失。考えれば考えるほど、確信が持てなくなってしまいました。まあゲイシャというのはいくらなんでも勘違いで、本当は女郎さんかなんかじゃないかとは思いましたが。これはうちのボスの知識の出所を確かめなければと、翌日早速聞いてみると、「クライアントの靴の会社の人から聞いた」とのこと。これでますます自信喪失。
これはザセツしたメモリーオブゲイシャを引っぱりだして、読むしかないのだろうか。でもそれもメンドー。結局それ以来、会う人ごとに纏足に関する質問をしていました。先日こいうことに詳しそうな方と会う機会があったので、さっそく質問してみると、「中国に間違い無し」といわれました。いわく「芸者というのがそもそも間違っているし、2歳か3歳で始めなければいけない纏足を、置屋に売られた後に始めるというのも不可能。」これで一応ホッとしている私ですが、何となくまだ不安。もしどなたかこの件に関してご存じの方がいらっしゃいましたら、是非是非教えてください。
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