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Vol.14 ザッツ ニューヨーク

何事にもあまり間違いがなく、真面目で几帳面で、キチンキチンとしている日本国のようなところからニューヨークに来ると、そのあまりのイイ加減さにウンザリします。何しろ小包はなくなる、宅急便はなくなる、書留でさえ受け取りの人のサインがあるにもかかわらず行方不明。アポイントをとっていたのに、相手が不在。公衆電話は壊れているし、買い物をすれば不良品のオンパレード。誕生日に「ブルーの花束」と指定してあったのに、届いたのはピンクの花。おまけにその花に添えられていたチョコレートが行方不明で、それが発見されて届くまで待たされること1時間半。あー、こうして書いているだけでも、イライライライラ。しかしこんなことにイチイチ真剣につきあってもいられないので、私はまず「全てのことは、上手くいかなくてあたりまえ」と考え、それでも何か理不尽なことが起きたときは、心の中で「ザッツ、ニューヨーク!」とか「ザッツ、アメリカ!」と叫び、ムリヤリ自分自身を納得させ、それ以上は考えないでなるべく早く忘れるようにしています。そうでもしないと私の胃には穴が開くし、脳ミソは沸騰寸前。

こちらで経済の修士過程を終えて二年前日本に帰った友人は、日本帰国を一週間後にひかえたある日、電話局に電話してその月いっぱいで電話をディスコネクトするようお願いしました。担当の人は「グットラック」などと感じよく応対しておきながら、なんとそのすぐ後に電話をディスコネクト。まったくもー、人のいうことをちゃんと聞いていないんだからー、ともう一度電話して(それも自分の電話がつながらないので、公衆電話から)事情を説明したところ、月末までつなぐ作業ができないとのこと。切るのは一瞬でつなげるのには一週間。帰国間際で色々なところに連絡しないといけない彼女は、途方に暮れました。が、さすがにこちらの大学院で二年間もまれただけあってすぐに立ち直り、公衆電話か友人宅の電話を使い、何とか無事に帰国しました。当時は私も彼女も携帯がなく、連絡がとれなくて困った私たちは、仕方が無いので用があるときは直接相手のアパートに出向き、不在のときはドアに手紙を貼っていくという究極の手段を採用したため、その週一週間お互いのアパートの間を飛脚のように走りました。ああ、こんな大都会でなんて原始的。

しかしこのいい加減さのおかげで、こちらが得をすることもあります。私の去年の9月の光熱費の請求は、なんとたったの15ドル。「急に値下げがあった話も聞かないし、お得意様キャンペーンなのかな」などとあまり深く考えもしませんでしたが、その次の月はさらに安くて10ドル。ゼッタイおかしいと思いよくよく請求書をみてみると、電気使用料がゼロになっているではありませんか。そうです、私の電気のメーターはブッ壊れてしまっていたのです。この件についてどうしたらよいか、会社で皆の意見を求めたところ、「このまま黙って使い続ける」と答えたのは一人で、「1〜2ヵ月様子をみて、何も変化がなければ一応先方に連絡する」というのが大方の意見。そしてここがポイントですが、何かがあって電話局や電力会社に電話をしたとき、電話をした日にちと時間とその内容、そして応対した人のフルネーム(たとえむこうがジミーですと、名前しかいわなくても、シツコク名字もきく)を、ちゃんと証拠として記録しておくこと。皆にいわれた通り、12月の最初に電力会社に連絡しましたが、この10ドルの請求は2月まで続きました。

でもアメリカ人だって、かなり迷惑しているのです。ある朝のこと、会社に行くと同僚の一人が、真剣な顔で受話器を握り締め、電話にはりついています。どうしたんだろうと思いながらも、自分のデスクでコンピューターをたちあげていると、しばらくして彼女が「ちょっと聞いて!」とプンプンしながら、こちらにやってきました。何でもクレジットカードの期限が切れても新しいカードが来ないので、カード会社に電話したら色々な部署に散々たらい回しにされたとのこと。どうりで長いこと電話にかじりついていると思った。でもよくあることです。「それでね、結局最後に向こうがなんて言ったと思う?」私がコンピューターのモニターを眺めながらポーっと聞いていると、「カードを作る原料のプラスチックが、不足していますだって!」オーマイガーット、なんなのそれは。唖然としながらも怒りがおさまらない彼女は、「ねえ、ここはアメリカよね。ワタシ、アメリカ合衆国にいるのよね。どうしてプラスチックが不足するの?こんなこと考えられない、信じられない、ねぇ、どうして?どう思う?」そんなこと言われたって、アメリカ人のアナタに理解できないことが、日本人のワタシに解りますか。それこそ「ザッツ、ニューヨーク」。考えるだけムダというものです。

追伸:これをかいたのは四月の前半ですが、月末に四月分の電気の支払いの請求書が来ました。なんとまた使用料ゼロで10ドル。でも私はこの前一回連絡しましたからねー。知ーらないっと。