Vol.18 Lay off
困った大統領が戦争を始めてしまったおかげで、反戦運動やらテロの警戒やら、毎日落ち着かない日々が続きます。これでただでさえ傾いていた経済が大混乱し、私の周りでも「誰々がクビになった」という話を聞くようになりました。朝ボスから「君はクビだよ」と言われ、次の日から来なくてよくなってしまうという、あれです。
クビになることを英語で「get fired」とか「be laid off」とかいいます。しかし同じクビでもget firedは、その本人に何か落ち度があって解雇されるものであり、「being laid off」---レイオフされる---というのは会社の都合で解雇されてしまうことなので、同じクビでもこの両者には大きな違いがあるのです。今私の周りで起きているのは、このレイオフが圧倒的。永年ニューヨークで働いている私の日本人の友人によると、「金曜日に『君はもういらないよ』っていわれて、月曜から来ないのが一般的」だそうです。ああ恐ろしい。
私のように永住権を持たず労働ビザで働いている外国人労働者にとって、事態はさらに深刻です。というのもクビになるということは、即国外退去をも意味するからなのです。私が今持っているのはH-1Bという労働ビザですが、これは今の会社が「ミカコ ヒラタさんが我が社には必要です」という申請を移民局にしてもらっているので、今の会社を解雇されるとこのビザは即座に効力を失い、私の雇用者は私に日本への片道切符を渡す義務が発生し、私は次のビザを申請しない限り、不法滞在者となってしまうのです。
私は労働ビザをこの会社でとってもらっていると同時に、永住権(グリーンカード)の申請もしてもらっています。最初の予定では去年の夏の時点で取れていたはずが、9.11のテロで外国人に対する規制が厳しくなったため、プロセスが遅れに遅れ、今や「一体いつ来るの?」というありさま。そのうえ戦争なんて、まさに泣き面にハチ状態。
さてなんと、お気楽会社である私の会社にも、ついにこのレイオフの波が押し寄せました。朝コンピューターに向かっていると、ボスがいつになく神妙な顔つきで入ってきました。
「みんなちょっと聞いてほしい。今日マイクをレイオフしたから・・・」
マイクは新卒で入ってきて、今年の春で三年目。キャリアも浅いので、まだまだ使い物になりませんでしたが、イラストが上手いのとちょっとした雑用をしてくれるので、ボスとしてもなんとかキープしておく努力をしていましたが、この戦争で先行き不安になったため、泣く泣く人員整理をする決心をしたそう。
昼休み、マイクは仲がよかった同僚とランチをし、会社に戻るとすぐに自分の机の掃除とやっていた仕事の引き継ぎ。そして午後三時半には会社を去りました。前日の今頃は私と二人でロゴのデザインをしていたのだから、何ともいえないおかしな気分であると同時に、「レイオフされるとしたらマイクだろう」とも思っていたので、まあ仕方ないかなとも思いました。
その日の帰り際ボスに呼び止められ、「今日マイクに起ったことは、君には絶対に起らないから、安心して仕事をしてほしい。グリーンカードがおりるまでは、雇用者としての責任は持つので、心配しないように」といわれました。こんなに毎日真面目に働いているし貢献してもいるんだから、自分がクビになるなんて考えたこともありませんでしたが、あらためてこう言ってもらえると、ちょっと感激しました。
|