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Vol.19 クレジットヒストリー

ニューヨークではこの不況のせいで、バブル時に果てしなく上がったアパートの家賃が下がったため、今年の始め私は三回目の引っ越しをしました。思えば三年前アパート探しをしていた時は、完全に貸して市場だったため、不動産屋にさんざんな目にあわされましたが、今回は信じられないくらいスムース。わ〜いザマーミロ、と言ったところです。

ところでアパートを借りる時必ずされる質問の一つに、「あなたのクレジットヒストリーはいかがですか?」というのがあります。クレジットもヒストリーもお馴染みの言葉なのに、最初に不動産屋に聞かれた時はどういうことかサッパリ解らず、「エーッと...つまりそれは...私は何を答えたらいいんでしょうか?」と言葉につまってしまいました。すると、
「クレジットカードはお持ちですか?」
「ハイ」
「支払いはちゃんとされていますか?」
「そりゃもちろん」
「ではけっこうです」
ということになり、その時はそれで話が終わりました。

その後解った事ですが、日本よりもクレジットカードでの買い物が多いアメリカでは、大きな買い物はもちろんのこと、スーパーマーケットや本屋だの、日常の買い物の支払いもカードでする事が多く、ついつい「毎月分割でちょっとずつ払えば返せるだろう」と、その時点では買えもしない物をカードで買ってしまい、その結果支払いが山のようにたまっていることがよくあるようです。クレジットヒストリーとはこのような支払いの経歴で、請求書の支払いがたまっていればいるほどBad Credit、ちゃんと支払われていればGood Creditということになります。そしてこのクレジットヒストリーを調べる事を、バックグラウンドチェックといい、部屋を借りたりマンションを買ったり、新しくクレジットカードを作ったりする時に、必ずチェックされます。

今は日本でもけっこう日常レベルでカードが使えるようになったということですが、こちらはもっと頻繁で、私も五年前ニューヨークに来た時、友人がマーケットできゅうりやら茄子やらをカードで払ったのには、ちょっと驚いてしまいました。去年知り合いのアメリカ人が日本にワールドカップを見に行く際、英語で書かれた「アメリカ人のための日本旅行の手引き」なるものを見せてもらいましたが、その中にカードに関する注意事項で、「日本での買い物は現金払いが主流なので、キャッシュを十分に持っていく事が必要です」というのがあるほどです(その他、『成田空港は東京から遠く離れているので、空港からタクシーに乗って都心に行ってはいけません。大変な事になります』という注意もあり、なるほどと思った)。

またカードだけでなく、真面目で正直でちょっと小心者の私達日本人は、電話代とか電気代だとかだってちゃんと期日までに支払い、「もう今月で出ていくんだからいいだろう」などと、アパートの最後の月の家賃を踏み倒したりしません。クレジットヒストリーの中にはこういうことも含まれ、例えば過去に電話代未支払い、というような記録が残っていれば、もちろんこれもBad Creditになります。

私のアパート探しは三年前も散々でしたが、一番最初に部屋を借りた時五年前は無職であった上、保証人になってくれる人もなく(長くなるので省きますが、ただ単に書類にサインするだけではすまない)、おまけに私にはこの「クレジットヒストリー」自体なかったので(日本でのことは考慮されなかった)、もっともっと悲惨でした。結局家賃六ヶ月分の前払いが借りるための条件になり、この六ヶ月分の家賃を持ってアパートの大家のオフィスに行き、
「で、今月から六ヶ月間、お家賃払わないでいいんですよね?」といったところ、相手はニヤリと笑って、
「いやいや、これは最後の六ヶ月分ですから。最初の六ヶ月はちゃんと毎月払って下さいね」
つまりこれはアパートの契約期間である一年間、私に途中で出ていかれないための拘束料だったのです。こんなにも信用されていない自分が悲しくなり、
「六ヶ月分払わされた上、又来月から払うなんて、エ〜ン」
などと泣いていると、その時のオカマの不動産屋に、
「そんな事言ったって、アンタはまだこの街では新人なんだから、仕方ないでしょッ!」
と叱咤されました。

今回、あまりに全てがスムースに進んだのでひたすら驚きましたが、うちの会社の社長によると、「アパートの大家というのは、高収入なのにクレジットカードの支払いがたくさん残っている人よりも、そこそこの収入でも、毎月の支払いがちゃんとしている人を選ぶものだ」とのことです。そんなわけで今回不動産屋によると、善良な日本人の私のクレジットヒストリーは「Excellent」、つまり優秀ということでした。毎月の支払いをちゃんとしているだけでこんなにほめられるなんて、アメリカって不思議です。