Vol.25 カルチャーショック
ニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ちの友人の一人が、西海岸に引っ越しをしたのは去年のこと。サンディエゴにいる病気のお母さんの世話をするという、家庭の事情もあったのですが、スポーツマンの彼にとって、ゴルフにサーフィンに草野球という、カリフォルニアの生活は天国らしい。今年の七月の独立記念日の週末、私は彼に招かれ、遠路はるばるカリフォルニアへと向かったのでした。
私はニューヨーク以外のアメリカの都市には、あまり行ったことがありません。まず車の運転が出来ないので、旅行するといっても徒歩と公共の交通機関で移動出来る、ボストン、フィラデルフィア、シカゴといった大都市の観光地か、運転してくれる友人が住んでいる場所にしか行かれない。それに加えて元々、ニューヨーク以外の場所にあまり興味がないのです。でも今回まあ誘ってくれたんだし、たまにはカリフォルニアもいいでショ、と遊びに行ったわけです。
空港を出ると、目の前にはさっそくパームツリーの大群。最初はそれが物珍しかった私も、二日目にはその広さと不便さに、心底ウンザリ。ニューヨークの友人に「もう帰りたいヨー」などと涙のメール。とにかく車でないとどこにもいかれないということが、ものすごいフラストレーションで、またその車ではるばる連れていかれる彼の友人の家というのが、どれもこれも不必要にバカでかい。巨大な家に巨大な冷蔵庫(もちろん氷も作れます)、ニューヨークのアパート生活には決して存在しない、ディッシュウォッシャー。夜になれば、バックヤードでバーベキュー。そして広くて豪華なリビングには、シアターのような超大型TVスクリーン。インテリアの雑誌からでてきたような、典型的な郊外のアメリカンライフに辟易し、「もー、青い空もパームツリーも、どーでもええわい!」と、ヘナヘナとニューヨークに帰ってきました。
翌日出社すると社長が「どうだったカリフォルニアは?」と聞くので、「う〜ん、社長は好きですか?」と、逆に尋ねてみました。すると、
「正直言って、僕は苦手。広くて不便だし、大体どこの家に行っても、同じような豪華版の家に豪華版の家具で、見栄っ張りで物欲のカタマリみたいじゃない。」
でしょ、でしょ、でしょ?と思わず心の中で拍手(ちなみにうちの社長は、ブルックリン生まれブルックリン育ちの、ニューヨーカー)。
社長と同じヒッピー世代で、ニューヨーク住まいが長い友人などは、
「昔何年か住んだことあるけど、ハッキリ言って、大嫌い、物欲の塊みたいで。まあニューヨークにもその手の人はたくさんいるけど、なんかちょっと質が違うんだよ。人もフレンドリーじゃなくて、異人種間の交流とかもないでしょう。白人はこっち、東洋人はこっち、みたいな。ま、メンタリティーの違いだね。大体、文化がないし」
と、もうボロクソ。その後も、「どうだったカリフォルニアは?」と会う人ごとに聞かれ、私の涙のカリフォルニア体験談を披露しましたが、ニューヨークの雑踏が心地よくなってしまった人は、カリフォルニアに限らず、「郊外のアメリカンライフ」というものに、相当なカルチャーショックを受けてしまうらしい。
ニューヨークに来る前に、テネシーで学生生活をおくってた日本人の友人は、
「この前久しぶりにテネシーに行った時、三日目くらいにやけにうんざりしたの。何なんだろうこの気分はって考えたら、自分がこの何もないイナカで、鬱になっているということに気がついた」
そう、私もあの青くて広い空の下で、超鬱だった...
「レストランもお店も早く終っちゃうから、夜はお家でみんなとトランプとかしないといけないし」
そう私もカリフォルニアで、夜延々とポーカーをさせられた...
仲良しのゲイの友人のスティーブンは、
「テキサスに行った時なんか、も〜最悪。ディナーが終わるでショ、で皆で映画を見ようってリビングでDVDを見るわけ。ホラ、例のビッグスクリーンで。それがもうどーでもいいようなハリウッドムービーで、それをニ本とか立続けに見るの。もう拷問よ拷問!」
そう、私も友人宅のでかい画面で、何やらよく解らんアメリカ映画をみた。私は素直なので、寝てしまったが...
「バーベキューっていったってアンタ、ただの巨大な肉の固まりだし。アタシは恐竜じゃないのよッ!」
う〜ん気持ちは解るが、オカマ嫌いのテキサスのカウボーイに撃ち殺されて、自分自身がバーベキューにならなかっただけでも、ラッキーだったかもしれない...
とまあこれが、郊外の典型的ハッピーアメリカンライフというもので、この国のほとんどの人たちはこういう生活をしているのでしょう。しかし私達、ニューヨークにいるんです。白人も黒人も東洋人も、みんないっしょくたに地下鉄にきゅうっと押し込められ、住空間は狭くても、映画も音楽も食べ物も全てがインターナショナルで、24時間営業。すみません、私たちそんな生活、耐えられません。よく「ニューヨークはアメリカではない」といわれますが、それを身にしみて感じた、カリフォルニアの休日でした。
(2005年11月) |