Vol.28 またまた FDNY
ずいぶん前のエッセイにも書きましたが、私はニューヨーク市消防局、通称FDNYのファイヤーファイターが大好きです。とにかく、ガーガーギーーーー(ピーポーではない)と走る消防車を見るだけで、ウキウキしてまう。「あなたそれはね〜、ユニフォームの効果よ。あれを脱げば、ただ図体がデカイだけの、暑苦しい男たちなのよ」などと忠告してくれる友人もいますが、最近彼らのスバラシさを再認識する事件が発生。なぜなら私の住んでいるアパートが、火事になってしまったのです。
私は寝てしまうと滅多なことでは起きません。特に真夜中や早朝などに起こされた場合、寝ぼけ状態から回復するのにかなり時間がかかる方。こんな私の朝5:00に火事が起こったんですから、もう最悪。幸いその日は連れ合いがいたので、彼が先に異変に気づき、私を起こしてくれたからよかったものの、それでも起きた直後の私は寝ぼけまくり、「火事なんだから、早く!」と怒鳴る彼を無視し、まずトイレに行き(この時点でトイレの壁から煙が出ていたらしい。私、むろん気づかず用を足す)、のろのろと着替えてコートを羽織る。そしてドアを開けると、廊下にはもわ〜んと煙が。「あ、いけない、外国人なんだからパスポート」とドアを閉めてパスポートを探し、同時におばあちゃんの形見の指輪をする。そして再びドアを開けると、そこには「けむりもわ〜ん」ではなく、白い煙の壁が...
「煙にまかれて死ぬ、とはこういうことか!」と、やっと目覚めて焦る私。とにかく何も見えないし、息もできない。幸い私の部屋は階段の隣なので、足で階段を探り、二、三段下りるとやっと前が見えたのでそのまま脱出。外では既に消火活動が始まり、火元が一階の商店であると告げられました。ふと見ると、四階に住むメアリーおばあちゃんが、ノースリーブのネグリジェのまま、裸足でたっているではないですか。コートを脱ぎ彼女の肩に掛けると、早くも登場していたRed Cross(日本で言う赤十字社)のひとが、メアリーおばあちゃんを、同じ一階でも火の来ていないダンキンドーナッツに誘導。
ここでうちのビルが、どういう構造をしているか簡単に説明しますと、上から見てカタカナのコの字になった五階建て。火が出たのは、コの左上にあたるところの一階にある雑貨屋。ダンキンドーナッツは、コの右上。各階にAからKまで部屋あり、火が出たすぐ上が2Cで、私の部屋はその二つ先の2A。結局この火災と消火活動のおかげで、各階の部屋ABCDが火、煙、ないしは水のダメージを受けました。
ダンキンドーナッツから外を見ていると、道路を隔てた向いのカフェに、他の皆が避難していました。おばあちゃんをRed Crossの人に託しそちらに移動すると、カフェのオーナーのご好意でコーヒーや水が配られ、とりあえずホッと一息。前の大停電のときもそうでしたが、アメリカ人というのはこんな非常時の時でも、暗くならない。おまけにうちのビルは、おばあちゃんの一人暮らし以外は、シングルの女性とオカマがほとんどなので、Red Crossの誰それがキュートだとか、FDNY のどれがホットだとかそんな話で盛り上がることしばし。もちろん火元の上で、あなたのアパートはもう無理ですと告げられて泣いている人もいますが、今回の場合それはBCの部屋と最初から言われていたので、他の人はこの時点で安心モード。私の部屋2Aは、Destroy ではないけどDamageですと言われていたのですが、二時間前に死んだと思えば、部屋が壊れたくらいなんでもないわいと開き直り。
しかし、この朝はこれだけでは終わらなかったのです。テラスでコーヒーを飲みながら空を見上げていると、今座っているカフェのあるビルの背後から何やら黒い雲が...と思いきや、何とそれは煙で、今度は避難したはずのカフェが燃えている...「逃げてくださ〜い!!!!」とカフェのオーナーにいわれ、再び他の場所に避難する私たち。これは、「同じ通りで二時間違いで発生した火事」という珍事件として、翌朝の新聞に出ました。
(http://www.ny1.com/ny1/content/index.jsp?stid=8&aid=68776)
お昼くらいになって、やっと部屋に入ることが許されたのですが、DestroyないしDamageの私たちはFDNYの係に付き添われて、変わり果てた部屋に戻りました。驚きはしたものの、思っていたより被害がない。燃えたのはバスルームの壁で、それを消すためにバスルームはメチャクチャ。壁にあった香水は、安いものは残りシャネル全滅。煙を外に出すため、窓ガラスは割られて窓ナシ。が、ここで私はあることに気づき、ファイヤーファイターの方々のスバラシさにカンドーするのです。
デザイナーにありがちですが、私もコレクターです。集めているのは日本が50〜60年代に海外向けに作っていた玩具や、ソルトアンドペッパーシェイカー。50年代のアメリカの食器とかガラスなどなど。こういった割れ物が、高さ2メートル横80センチの、ガラスの扉付きの棚二つにギッシリと飾ってあります。この棚があったのは燃えたバスルームのすぐ横。当然燃えたか、消火作業中に壊れたかのどちらかだと思って、あきらめていたわけですが、部屋に入ってまあびっくり。この棚二つをそのままスーーーーッと移動し、なおかつ壊れないように、ガラス戸同士を向かい合わせにして、隅の方に置いてあったのです。どこから見ても何も壊れていないし、おまけにこの棚の上に並んでいたむきだしのガラスの花瓶も無事。ぐちゃぐちゃに壊れたバスルームとの、なんとも不思議なコントラスト。
二日後に、このファイヤーファイターたち(マンハッタンにあるEngine 16, Ladder 7)が現場検証に来たので、丁寧にお礼を言うとともに「一体どうやって動かしたの?」ときいたところ、大変だったのなんだのとグチャグチャいわず、たったひとこと、「Ah... We are good...」と言って、上の階に静かに移動していった...か、かっこいい〜〜〜〜。この私のファイヤーファイター熱、治まることはないでしょう。
(2007年6月) |