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Vol.32 shalom family

火事の後しばらくしてからテナントの間で、「ビルが売りに出されているらしい」、という噂が流れ始めました。この話を連れ合いにすると、
「それって、誰が誰に聞いた話なの?出元はどこなわけ?」と問いつめるので、
「解んないけど、メアリーばあちゃんも、レイチェルばあちゃんもそういってるのよ」
「あのねー、君の住んでいるところには、おばあちゃんと、シングルの女と、オカマしかいないでしょう。つまりビル全体が、噂好きなおしゃべりオバちゃんの集まりなんだよ。そんな出元の解らない噂に、振り回されてはいけない。」
う〜ん、そういわれてみればそうだけど...

そして七月の終わり、いつものようにメイルボックスをチェックしにアパートに行くと、エレベーターのドアの上に一枚の張り紙が。それはビルが売却され、オーナーが変わったというお知らせだったのです。あ〜〜〜〜、噂は本当だったのだ!じゃあ一体、誰が修復してくれるわけ?そして翌日、今度は違う張り紙があり、「昨日の件は間違いであった」とかいてある。さらにその二日後、またまた違うメッセージで、「これが新しいオーナーの連絡先です」とあり、最初に書いてあったと同じオーナーの名前が。
「一体全体、どーなっちゃってるの?誰が本当のオーナーなの?」と、テナント一同騒然となりました。

この頃、ワシムと彼のアシスタントのロレーナが、「他のテナントに呼びかけて、テナントアソシエーション(略してTA)を結成したらどうか?」という提案をしてきました。
「だって、私、他の人に何度も電話しましたよ。なのに皆、怖がったりめんどくさがったりするから、私一人が始めたんじゃないですか」
「そう言わないで、ビラはこっちで作ってあげるから、それを皆に渡して反応を見よう」と二人に説得され、数日後ビラを受け取り、それを一軒一軒ドアの下から滑り込ませる。全く被害者である私が、何でこんなレジスタンス活動を繰り広げないといかんのだ...

そして輝く第一回TAミーティングの日、予想を上回る15人ほどの人が、指定した場所に現れたのです。火事の被害にあった人だけでなく、アパートは無事だったものの、二次災害で困っているテナントも来てくれました。火事から四ヶ月後のこの時点で、なんとまだガスは止まったまま。残されたテナントは、ホットプレートでしか料理が出来ない。また消火活動の時の水が、建物全体にしみ込んで、天井はカビだらけ。その上火事で出されたテナントは、食料品をそのままにして出て行ったため、ネズミ、ゴキブリが大量発生し、夜中ネズミに噛まれたテナントもいました。

特にカビの被害はひどく、私のクローゼットの中などは、気温の上昇と上の階からしみてきた水により、八月初めにはブルーチーズのようになりました。これは上の階のジェシカが、「カビが生えている!」と教えてくれたおかげで大事には至らなかったのですが、後一週間発見が遅かったら、クローゼットに残してきた私のドレスは、全滅だったでしょう。煙とカビの被害で、私はドライクリーニングだけでも、300ドル以上払いました。

そしてこのTAミーティングの際、テナントの一人が入手していた、新オーナーに関しての情報が公開されました。運の悪いことに私たちの新しいオーナーは、シャロームファミリーという、超悪名高いユダヤ人の一家。シャロームはマンハッタンにビルを130軒くらい所有し、常にテナントにハラスメントを加え、住みにくくなったテナントが出た後、家賃を上げて新しいテナントを入れる、ということを繰り返しているのです。前も書いた通り、マンハッタンのレントステビライズのアパートは、長く住めば住むほど、家賃が市場価格を下回ってくる。だからテナントを追い出して回転をよくすれば、それだけオーナーはもうかるのです。

「いつの日か、僕も私も、ニューヨークで暮らしてみたいナ」、などとお考えの、JPDAの若い会員の方。ニューヨークで部屋を借りるときは、値段・ロケーションはもちろんのこと、オーナーにも要注意。オーナーの名前が、Shalom やObeshalomeだったり、管理会社がSky ManagementとかEmpire Managementだったら、それは借りてはいけない部屋です。また気をつけていたとしても、私のアパートのように、ある日突然シャロームに買われてしまう場合もある。そういう、「ビルがシャロームに買われてしまった」という運の悪い人たちのために、救済用のウェブサイトまであるのです(http://www.shalomtenants.org)。ここにはシャロームが所有するビルの一覧表、また、身に覚えのないイチャモン(ちゃんと家賃を払ったのに、家賃未納の手紙が来るなど)をつけられないようにする対処法などが、詳しく書かれてます。

さて、こうして無事第一回TAミーティングが終わり、第二回のお知らせのビラを、私がまた配ることになりました。が、この新オーナーの存在を知ってしまった後、私の頭の中に浮かんだ言葉は、
「I’m outta here」
これはもう、逃げるが勝ち。そしてどう逃げるかが、問題。

(2008年4月)