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Vol.46「フリーライドからブランドを守る・不正競争防止法」

商標の世界で、〈フリーライド・Free ride〉とは、企業が長年の営業活動によって育ててきたブランドの持つ名声や信用に便乗することをいいます。他人が便乗することで、ブランドを築き上げた企業の長年の努力は無駄にされてしまいます。商標権は、類似範囲の商品やサービスには保護力がありますが、類似しない商品やサービスまでは、その力が及びません。それを補完できる法律が【不正競争防止法】です。イラストB20120625 リサイズw700本文中の事例の一つに「スナックシャネル」」がとりあげられています。有名な シャネル のイメージに便乗した「シャネル」事件は、[かけ離れすぎていて間違えるはずがない]という、それまでの混同の要件を見直し、著名商標を保護する力が大きくなる、きっかけとなったこと。その他の具体的な事例も取り上げられ、商標法と不正競争防止法の要件の整理と、保護力の説明がされています。
(2013年6月1日  編集・文責 :デザイン保護委員会 委員長 丸山和子)

 情報発信

フリーライドからブランド価値を守る法―不正競争防止法

中央大学理工学部講師  益子博

 1.注目される不正競争防止法

 商標のフリーライドから企業のブランド価値を守る法律として、不正競争防止法があります。ほぼ同じ目的に奉仕する法律に商標法があることはよく知られていますが、不正競争防止法となると、商標法ほどには知られていないのではないでしょうか。
商標法は商標を登録して権利(商標権)を発生させ、この権利に基づいて保護を図るのに対し、不正競争防止法は登録は無関係で、商標を使用する行為そのものが不正な行為である場合にこれを規整して保護を図るものです。

不正競争防止法は、防止すべき不正な競争行為が列挙されており、商標に関しては、2条1項1号類型(周知表示混同惹起行為)と、同2号類型(著名表示冒用行為)がこれにあたります。商標法のように、権利の設定や維持に費用を要しませんし、登録も不要ですから、侵害があった場合にただちに訴訟を提起できるメリットがあります。
対象となる範囲が大幅に広がったことに加え、近時の度重なる改正で救済手段も強化されたため、「使える」法律として注目されています。

 

2.民法、商標法、不正競争防止法

 同一または類似の商品役務に、同一または類似の商標を他人に勝手に使われると、商標権の侵害として商標法に基づく差止請求が認められています。
商標法による差止請求は、商標が登録されていて商標権が有効に存続していることが前提です。

登録されていない場合はどうでしょうか。この場合には、商標法に基づく差止はできませんから、民法不法行為か不正競争防止法を考えることになります。しかし、不法行為法(民法)では、権利侵害に対して損害賠償を請求することができるとのみ規定していて、差止を認めておりません。
損害賠償は、侵害がおきた後の金銭的な事後補償ですから、勝手に使われていることに対する対応としては十分ではありません。事後的な救済ももちろん必要ですが、それより、現在あるいは将来にわたっての使用を止めさせることこそが重要なのではないでしょうか。
そこで他人の無断使用を止めさせるために有効な手段となるのが不正競争防止法です。不正競争防止法は商標法と同様、差止請求を認めているところに大きな特徴があります。

 

3.不正競争防止法による保護

不正競争防止法によって差し止めるためには、自分の商標(旧不正競争防止法は商品表示と営業表示を分けて規定していましたが、現行法はまとめて「商品等表示」としています)が、ある一定地域のごく狭い範囲であっても需要者にある程度知られていること、いわゆる周知商標であることが前提です。
不正競争防止法は、周知にした限度で保護を図る制度ですから、登録されていない分、周知性が要求されています。商標が何に使われているか、対象となる商品役務に制限はありません。

周知となった商標と同一または類似の商標を無断で使用し、混同を生じさせまたはそのおそれがある場合に差止が認められます。これが不正競争防止法2条1項1号の周知表示混同惹起行為です。周知の度合いがさらに広がり、全国的に有名になったものを著名商標といい、この場合は2条1項1号とは別に2号の適用を受けることができます。これが2条1項2号の著名表示冒用行為です。著名となった商標と同一または類似の商標を無断で使用した場合に、混同のおそれを問うことなく差止が認められます。具体事例を見てみましょう。

 

4.周知表示混同惹起行為(2条1項1号)

千葉県松戸市でスナックを経営する者がいました。店の名前は「スナックシャネル」。高級婦人服、香水等で世界的に著名なあの「シャネル」と同じです。
「シャネル」は日本でも著名ですので、現在では2号が使えるのですが、事件当時、2号の規定はありませんでした。1号は、商標が「周知」であり、「類似」し、「混同のおそれ」があるときに差止が認められますから、これらを立証しなければなりません。問題は、「混同のおそれ」です。

古びた建物の2階にわずか10坪足らずの店を構え、従業員1名、アルバイト1名で、1日数組の客を相手に、年間売上870万円程度の松戸にある「スナックシャネル」と、世界的に著名な「シャネル」を何らかの関連があるとしてはたして混同するでしょうか。
営業規模も内容もまったくかけ離れている異業種の場合には混同は生じないのではないかと思われますし、あのシャネルが、松戸の場末でスナックを経営するなどとは誰も思わないのではないでしょうか。

しかし千葉地裁は現在の経営の多角化傾向からすると、一般消費者は、業務上、経済上、組織上何らかの連携関係にあるものと誤認混同するおそれがあるとして差止を認めています。このような広義の混同の解釈は、判例理論として定着しているところですが、控訴審である東京高裁では、この混同のおそれの認定はさすがに無理があるとして否定しています。※1

 

5.著名表示冒用行為の新設(2条1項2号)

 「シャネル」以外にも、たとえば、カメラの著名商標として当時よく知られていた「ヤシカ」を化粧品に使われた例や、※2香水、高級アクセサリー等の国際的なブランドである「ニナ・リッチ」をノーパン喫茶の看板に使われたり、※3遊園地の経営やキャラクターの商品化事業で有名な「ディズニー」をアダルトショップの営業表示に使われた例などがあります。※4

これら著名な商標と同一または類似の商標を使っているにもかかわらず、混同のおそれはないとしてしまうと、著名な商標がもつ顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)することを禁止することができないばかりか、本来の使用とは違う商品や業種に使われることで長年の営業努力によって築き上げた信用、名声、評判が薄められ(稀釈化、ダイリューション)、良質なイメージが汚染(ポリューション)されるという弊害が生じてしまいます。

「シャネル」事件を契機として、広義の混同の解釈にも限界があるのではないか、たとえ広義の混同を適用しても、商標のフリーライドやダイリューション、ポリューションには対応しきれないのではないかとの気運が高まり、平成5年の改正で、1号とは別に2号が新設されたのです。
2号では周知性のレベルを上げ、全国的に有名であることを要求する代わりに混同の要件をはずしました。これにより、混同のおそれを問うことなく、著名商標と同一または類似の商標を使用するとただちに不正競争行為として差止が可能となり、著名商標の保護が徹底されました。

 

6.1号と2号の相違

1号と2号の違いをまとめますと、需要者に商標が知られている程度は、1号ではある地域のごく狭い範囲であってもよく、2号では全国的に知られているという高いレベルが要求されること、商標(商品等表示)は、1号2号ともに同一または類似していることが必要ですが、1号ではそのような商標を使用して混同のおそれがあることを問われるのに対し、2号では不要であること、さらに平成17年の改正で、2号についても民事的救済のみならず、不正の利益を得る目的で、または信用もしくは名声を害する目的で著名な商標を無断で使用する行為に刑事罰を科すことにしたことなどがあげられます。

表1リサイズ

7.不正競争防止法の活用

不正競争防止法も商標法も、自分の使用する商標を不当な侵害行為から守るために奉仕する制度であることにかわりはありません。同じひとつの行為であっても「権利」に着目するか、「行為」に着目するかの違いがあるものの、侵害の有無を認定することについては相互に直接関係はありませんから、商標法で勝訴したからといって不正競争防止法でも勝訴するとは限りません。その逆もありえます。商標権を持っていたとしても不正競争防止法で争うことはできますし、あるいは不正競争防止法と商標法の両方を提起しておけば、完全に負けてしまうという完敗のリスクを減らすことができる可能性もあります。フリーライドから企業のブランド価値を守る法律として、不正競争防止法を活用してはいかがでしょうか。

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