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Vol.110「新人デザイナーが向き合う<フォントの知的財産権>」

今回は、デザイン保護委員会内部勉強会「フォントについての勉強会・トラブル回避」(Vol.108参照)からの継続テーマとして、書体の著作性について判示された<タイプフェイス事件>と、フォントデータの不正使用についての事例<海賊版フォント搭載PC販売事件>の判決の読み解きをお届けします。

新人デザイナーが、初めてのロゴ制作に取り組み、フォントの知的財産権について意識し、奮闘していく過程をストーリー仕立てにした解説は、弁理士である筆者が「デザイナーの目線」で組み立ててくださったものです。大事なポイントが理解しやすく、また、読みやすく書かれています。

(2019年2月14日 編集・文責:デザイン保護委員会 担当 丸山 和子)

◆このページに限らずVol.1~これまでに掲載した内容は著作権・他で保護されています。

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情報発信

フォントの著作権保護と使用許諾についての判例解説

弁理士 川本 篤 しろくま特許事務所

新人デザイナー、初めてのロゴ制作 -知的財産権とフォント-

この春から、とあるデザイン事務所で働き始めた新人デザイナーA。入社して初めての仕事、それは某メーカーがブランディング改革の一端として企業ロゴを刷新するので、その新しいロゴを製作してほしいとの依頼でした。
従前のロゴよりシンプルなロゴにしようと考えたAは、新しく購入した<フォントα >を使ってロゴを制作しようとしています。そんな時、上司から「ちゃんと権利関係は確認しているのか?」と注意されました。

さて、Aは具体的にどのような権利関係を確認すべきなのでしょうか。

◆タイプフェイスの著作物性について
文字(字体)そのものは、情報伝達のための基本ツールであり、ここに何かしら権利が発生することはありません。しかし、フォント(タイプフェイス)(※1)に関しては、長年著作権法上の取り扱いについて議論があり注意が必要です。
では早速タイプフェイスの著作物性について争われた最高裁判例を確認してみましょう。

【タイプフェイス事件「最高裁平成10年(受)第332号 平成12年9月7日判決」】
この事件は、タイプフェイスの製作販売等を行うXが、同業種を行うYに対し、Yが製造販売する「新ゴシック体U」などの書体を記録したフロッピーディスク、同書体を搭載した写真植字機用文字盤の製造販売がXの著作権を侵害するものとして差止請求等を求めたものです

最高裁は、タイプフェイスの著作物性について、以下のような判断を示し、上告を棄却(著作権侵害を否定)しました。

「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を著作物と定めるところ、印刷用書体がここにいう著作物に該当するというためには、それが従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であり、かつ、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならないと解するのが相当である。」・・・(省略)・・・「第一審判決別紙目録(三)の書体を含む一組の書体(ゴナU)及び同目録(四)の書体を含む一組の書体(ゴナM。以下、ゴナUと併せて「上告人書体」という。)は、従来から印刷用の書体として用いられていた種々のゴシック体を基礎とし、それを発展させたものであって、「従来のゴシック体にはない斬新でグラフィカルな感覚のデザインとする」とはいうものの、「文字本来の機能である美しさ、読みやすさを持ち、奇をてらわない素直な書体とする」という構想の下に制作され、従来からあるゴシック体のデザインから大きく外れるものではない、というのである。」

また、タイプフェイスの著作物性の認定を厳しくする理由について、裁判官は、その機能に着目して以下のよう説示しております。

「印刷用書体は、文字の有する情報伝達機能を発揮する必要があるために、必然的にその形態には一定の制約を受けるものであるところ、これが一般的に著作物として保護されるものとすると、著作権の成立に審査及び登録を要せず、著作権の対外的な表示も要求しない我が国の著作権制度の下においては、わずかな差異を有する無数の印刷用書体について著作権が成立することとなり、権利関係が複雑となり、混乱を招くことが予想される。
※上記の判決文中の下線、色文字による強調は筆者による。

つまり、タイプフェイスそれ自体が、書画のように鑑賞の対象になるようなものでなければ著作物性は認められないという判断となりました。独創性や美的鑑賞といってもどの程度の独創性、美的鑑賞性があれば著作物として認められるかまでは判断されておらず基準は定かではありませんが、タイプフェイスについて著作物性が認められる可能性は極めて限定的といってよいでしょう。

なお、タイプフェイスではありませんが、装飾文字について著作物性が認められた事件があり、独創性や美的鑑賞の程度を判断する上での参考となるかもしれません(※2)。

◆フォントデータ(電子機器で使用されるフォント)の不正使用について
Aは、タイプフェイスの著作物性が非常に限定的ということは、<フォントα >の取り扱いについて権利関係を気にする必要はないのではと考えました。そのまま上司に報告しようと思いましたが念のためさらにリサーチを続けるとこんな裁判例が見つかったのです。

【ディー・ディー・テック事件「平成15年(ワ)第2552号 平成16年3月5日判決」】
この事件は、甲が、甲のフォントデータを無断で複製した、いわゆる海賊版フォントデータをパソコンにインストールし、そのパソコンを販売していた乙に対し、かかる行為が甲の著作権を侵害するとして、差止請求等を求めたものです。
本事件では、フォントデータ(判例上「フォントプログラム」と表記されております)はプログラムの著作物に該当し、乙の行為は、甲の著作権を侵害するとして、乙に対して8055万5500円の損害賠償が認容されました(※3)。

複製防止機能が解除された海賊版をパソコンにインストール(複製)しているため、著作権侵害は当然のように感じます。本事件を手掛かりとして、フォントデータを無断で複製する行為はフォントベンダーやフォントデザイナーの著作権を侵害する可能性があることがわかります。

Aはフォントの無断複製で高額な損害賠償が課せられる可能性があると知り、ぞっとしました。

◆規約違反について
Aは、<フォントα >を勝手に複製してインストールしたりするとフォントベンダーの著作権を侵害する可能性があることを上司に報告し、引き続きロゴの制作に取りかかろうとしました。
すると、再び上司から「<フォントα >の規約は読んだのか?」と質問されました。Aは<フォントα >を購入する際、<フォントα >の商業利用についての規約があることを思い出しましたが、規約内容をよく読まずに同意をクリックして購入していたのでした。

<フォントα >の利用については、著作権以外にも気をつけるべき点があります。Aは規約を読んでいないにせよ、それに同意して<フォントα >を購入しています。
つまりAとフォントベンダーとの間で契約が成立していることになります。もし、規約外の行為があれば契約違反となり、フォントの不正使用として一般不法行為の問題となる可能性があります(※4)。

規約の中には、
・フォントの使用地域(購入等したフォントを利用して商品パッケージを作成した際、その商品の流通が国内に留まるのか、それとも海外へも流通するのか等)、
フォントを使用して製作したロゴの商標登録の可否、改変の可否などの条件が記載されています。

すなわち、Aは規約をよく読んでこれに違反しないようフォントを利用しなければなりません。規約内容はフォントベンダーやフォントの種類によって異なりますので、各ベンダーの規約をよく読むようにしてください。

例)モリサワフォントの商業利用に関して
https://www.morisawa.co.jp/products/fonts/commercial-use/

ロゴ一つ製作するにしても、これだけのことに気をつけなければいけないのかと思ったA。規約もしっかり確認し、上司への報告も済ませました。後はクライアントに納得頂けるロゴを製作するだけです。

まとめ
以上の通り、フォントそのものの著作物性が認められる場面は極めて限定的であるものの、フォントデータであればプログラムの著作物に該当する可能性があります。そのため、無断複製等の行為は著作権の侵害を構成する可能性があります。また、規約に違反したフォントの使用が不正使用として一般不法行為の問題となる可能性がありますので注意しましょう(※5)。

文中の(※1)~(※5)を以下に記載します。

(※1) 厳密にいえば、タイプフェイス、フォントは意味が異なるものであるが便宜上、同意義の語句として記載した。
(※2) 大阪地裁平成10年(ワ)11012号 平成11年9月21日判決 装飾文字「趣・華」事件。
(※3) 本事件ではフォントデータがプログラムの著作物に該当するか否かについての具体的な判断が示されておらず、フォントデータが著作物であることを前提に、被告の行為が著作権侵害に該当するか否かが判断されている。
(※4) 大阪高裁平成25年(ネ)第2494号 平成26年9月26日判決 損害賠償等請求控訴事件 フォントが知的財産権の保護を受ける場合でなければ不法行為を構成しない可能性が高いと判断されている。
(※5) その他、フォントの模倣行為が不正競争行為に該当するとして損害賠償が認められた事件も存在する(東京高裁平成5年(ラ)594号 平成5年12月24日決定)。

以上

 

活動報告

2018年度 第5回 D-8(デザイン8団体協議会)デザイン保護研究会 参加報告

日  時: 2019年1月23日(水)18:30〜20:30
会  場: (公社)日本サインデザイン協会会議室 (東京都千代田区神田和泉町2-9 富士セルビル4F)
参加者:下記のとおり(敬称略)
JPDAからは、デザイン保護委員会委員長 徳岡健
経産省デザイン政策室クールジャパン政策課より、佐々木葉月、特許庁意匠課より、清野貴雄、特許庁企画支援課よりオブザーバーとして、原川宙

各協会からの参加委員数。
・JIDA(公社)日本インダストリアルデザイナー協会より1名
・JAGDA(公社)日本グラフィックデザイナー協会より1名。
・JJDA(公社)日本ジュエリーデザイナー協会より1名。
・JCDA(公社)日本クラフトデザイン協会より1名。
・JPDA(公社)日本パッケージデザイン協会より1名。
・JID(公社)日本インテリアデザイナー協会より1名。
・SDA(公社)日本サインデザイン協会より1名。
・DSA(一社)日本空間デザイン協会は欠席

D-8デザイン保護研究会委員長(SDA)の司会にて会議進行。

<議事概要>。
・特許庁 意匠課 清野貴雄氏より「意匠制度の見直しについて」概要の説明。
画像デザインの保護、空間デザインの保護、関連意匠制度の拡充、意匠権の存続期間の延長、複数意匠一括出願の導入などついて概要説明と質疑応答。
前回の議事録確認。
・各協会より知財関連の情報提供。
① 委員長より「ジャパンデザインミュージアム構想」セミナーについての案内。
② JPDA より2019年2月7日実施の「ストックフォトについて」セミナーについて案内。
・D-8デザイン保護研究会来年度の予算について。
・D-8デザイン保護研究会主催の「知財セミナー」企画について、検討案を委員長より次回に提出予定。

次回は2019年3月20日(水)18:30よりSDA事務局会議室にて開催予定。。
(報告/デザイン保護委員会委員長 徳岡 健)

委員会ヒトコト通信

D-8 創作証 について改めてお伝えします。

D-8創作証は、デザイン創作物の模倣、改ざん、無断複製その他の無断使用、目的外使用などの防止を目的として作られました。
デザイナーが関わるすべての創作物には「創作した権利」が当然に発生していることをマークによってあらわし、業界並びに社会に向けてデザイン創作の価値の周知と定着を図ることを目指しています。

D-8創作証マークの貼付により創作証の使用者の一人ひとりが自身の責任の基に、この制度を育てていくことになります。
デザイナーとクライアント、そして社会に向けて、デザインには知的財産権があるのだから、「無断での使用、流用をしてはいけない」という意識を共有していけるように、その意思表示をする行為です。

結果として創作者だけの利益ではなくクライアントとの良好な関係、社会の中でのデザインの地位の向上、産業の発展に繋がる社会への貢献へと進化していくことを目指しています。

※上掲のフライヤーは2017年作成のJPDA版配布資料です。

<創作証運用について> より詳しくは(JPDAサイト) http://www.jpda.or.jp/activities/d8_0401/

(文:「D-8創作証」基本制度作成メンバー/JPDAデザイン保護委員会委員 丸山和子)

引き続き、記事へのご質問・ご意見・ご要望等は下記アドレスで受け付けています。
MAIL:info@jpda.or.jp

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