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Vol.56「デザイン契約の特に重要な用語 考察-4」

前回、契約書の中に出てくる用語と簡単な解説をお届けしましたが、その後編として、内容をきちんと把握し理解しておくべき、特に重要な用語や項目が取り上げられ、解りやすい視点で詳しく説明されています。
契約書を身近なものとして、デザイン業務のプロセスの中に、当たり前にあるものと受け止められることを、そして契約書、業務スタート時の覚書・業務内容チェックリストなどが、受委託双方の信頼関係を築く“ビジネスツール”として使用される機会が増えていくことを願います。

(2014年4月25日 編集・文責:デザイン保護委員会 委員長 丸山和子)

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 情報発信

続 デザイン業務に関する契約で使用される用語について
特許業務法人レガート知財事務所 弁理士 峯 唯夫

前回に引き続き、契約書で使用される用語について解説します。
今回は、前回提示した用語から、より詳しい解説が必要と思われるものについて、詳細に解説します。

1 意匠における「創作者」の権利

意匠権が成立するまでの流れは次のとおりです。

・意匠の創作により「意匠登録を受ける権利」が発生する。
・「意匠登録を受ける権利」を持つ者が意匠登録出願をすることができる。
・その意匠が登録要件を満たしていれば意匠登録され、意匠権が発生する。

なお、意匠登録を受ける権利を持たない者が出願した場合(「冒任出願」といいます)、その出願は拒絶され、もし登録されても無効とされ、意匠登録を受ける権利を有する者から請求があったときは、意匠権を移転しなければなりません。

すなわち、意匠権の根底にあるのが意匠登録を受ける権利です。

意匠登録を受ける権利は、意匠の創作によって自動的に、何の手続もなく発生します。その権利を取得する者(権利者)は意匠の創作者です。
創作者がフリーのデザイナーであれば、そのデザイナーが意匠登録を受ける権利を取得します。創作者がインハウスのデザイナーであっても、意匠登録を受ける権利を取得するのはデザイナー個人であって、企業ではありません。
複数のデザイナーが共同で一つの意匠を創作したときは、意匠登録を受ける権利は複数のデザイナーの「共有」となります。

意匠登録を受ける権利は、財産権であって、当事者の合意により譲渡することができます。
以下、場合を分けて解説します。

(1)フリーのデザイナーの創作

企業から依頼されてフリーのデザイナーが意匠を創作した場合、その意匠登録を受ける権利はデザイナーが取得します。企業ではありません。デザインに対する対価を支払っても、意匠登録を受ける権利の譲渡が合意されていなければ、意匠登録を受ける権利はデザイナーのものです。
デザインの創作に対する対価と意匠登録を受ける権利の対価は「別である」というのが法律の考え方です。

契約書で、「意匠登録を受ける権利」について全く触れていない場合、意匠登録を受ける権利はデザイナーが保持していると考えるしかありません。このとき、企業がデザイナーに無断で意匠登録出願をすれば、冒任出願であり、正当な権利とはなりません。

契約書で「デザインの対価**円」と記載され、意匠登録を受ける権利は企業に帰属する、と記載されている場合。 微妙です。
客観的に見て対価が意匠登録を受ける権利の対価を含んでいると判断される場合は、企業に帰属することになるし、含んでいないと判断される場合はデザイナーが保持しているということになるでしょう。
意匠についての裁判例は発見していませんが、著作権が譲渡されたかどうかが争われる裁判では、概ね、このような基準で判断されています。

(2)インハウスデザイナーの創作

インハウスデザイナーの創作であっても、意匠登録を受ける権利はデザイナーが取得します。しかし、社内の「職務発明規程」などによって、意匠登録を受ける権利は会社に譲渡されることになっている場合が多いと思います。とはいっても、意匠法は、会社に意匠登録を受ける権利を譲渡したときは「相当の対価」の支払いを受ける権利があると定めています。
ご記憶にあるでしょう、「青色発光ダイオード」の中村さんの訴訟。意匠でも同じです。自分の創作がどのように扱われているのか、各自の「職務発明規程」を確認してください。

(3)共同創作

A,B二人で共同して一つの意匠を創作した場合、意匠登録を受ける権利は「共有」になります。共有の権利を第三者に譲渡する場合、共有者の同意が必要です。Aがインハウスのデザイナーで、Bがフリーのデザイナーの場合、Aは「職務発明規程」でその意匠登録を受ける権利を会社に譲渡することになっているとしても、Bの同意がなければ企業は意匠登録を受ける権利の譲渡を受けることができないのです。A,B両者がフリーのデザイナーであっても同じです。共同開発が増えている昨今、このような場合の権利処理には注意が必要です。

2 翻案権・二次的著作物

読みたくないかもしれませんが著作権法の条文を示します。

第27条(翻訳権 翻案権等)
著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、若しくは脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)
二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を有する

この規定は、パッケージデザインのグラフィック面において重要な規定です。
まず認識して欲しいことは、著作権を譲渡するという契約があったとして、その契約書において「第27条、第28条の権利を含む」と記載されていなければ、これらの権利は譲渡されていないものと推定される、ということです。
企業がデザイナーに提示する契約書では、だいたい記載されています。しかし、記載されていないことによって大問題になったのが「ひこにゃん」です。著作権を譲渡したデザイナーが似たような図柄を別のところで使っていいのか、ということが問題となりました。
以下、キャラクター図柄に即して説明します。

イラスト_20140331 リサイズ

パッケージに表示する図柄として、上の図柄を提案したとしましょう。顔の正面のみです。この図柄の色彩や表情を変えたり、手足をつけたりかぶり物を作ることは「変形」または「脚色」などの翻案にあたります。このキャラクター図柄を主人公にしたCMを製作することは「映画化」に該当します。元の絵を作ったデザイナーは、絵だけでなく、これを発展させた種々のものに対して権利持っているのです。これが27条(翻訳権 翻案権等)のいうところです。

これらの中には、元の図柄とは別の新たな創作物といえるものもあるかもしれません。それらを「二次的著作物」といいます。「キャンディキャンディ」の事件で最高裁は、原作に基づいて作画された絵は、原作の二次的著作物であると判示しています。
28条は、そのような「二次的著作物」に対しても原著作物の著作権者は権利を主張できる、ということです。

3 秘密保持条項

「秘密保持条項」はその名前の通り、秘密を守れ、ということにつきます。

デザイン創作においては、依頼者である企業から「新商品」の情報だとか「パッケージデザイン変更」の情報という、秘密情報がデザイナーに提供されます。それを口外するなということです。通常の契約書では、企業からデザイナーに提供する情報を秘密にしろ、と記載されていても、デザイナーが企業に提供する情報を秘密にしろ、という規定がない場合が多いようです。でも、デザイナーも自己の持つ「秘密にしたい情報」はあるだろうし、その情報を企業に提示することもあるでしょう。現実問題としてあるかどうかは別として、契約書においては、お互いの秘密を保持するという形にすべきでしょう。

さて、「秘密を守る」とはどうしたらよいのでしょうか。企業から、デザイン事務所の秘密保持体制が問われることも多くなっています。最低限、以下のような対応を取ることをお勧めします。秘密として管理していると、もし漏洩されても、不正競争防止法で保護されます。

秘密として管理している、というためには、「これは秘密だ」という意思が、従業員をはじめとして、だれからも分かるようにすることが必要です。
例えば、書面に「秘密」と記載されていても、その書面が、だれでも見れるように扱われていれば、それは「秘密として管理」されているとはいえず、保護されません。

裁判所の判断例は事情により許容範囲が変わりますが、最低限、従業者の勤務規則などに「秘密保持」を規定しておくことが必要です。しかし、勤務規則などで規定があっても裁判所はあまり評価してくれません。以下の対応が望まれます。

(ア) 秘密情報を外見上特定すること
例えば、秘密情報が記載された書類に「秘密」と記載すること。

(イ) アクセス者の制限
秘密情報にアクセスできる人を限定する。秘密情報ごとに、この情報にアクセスできる者は誰かを書面として記録を作る必要があります。
フリーのデザイナーであれば、依頼者からの情報は担当デザイナーのみが取得する、という体制を作ることになります。

(ウ) コピー枚数を記録すること
秘密情報が記載された書類をコピーする場合、コピー数を必要最低限とし、枚数を記録する。

(エ) 資料を回収すること
会議で使用した秘密情報の書類は、会議終了後回収し、外部への流出を阻止する。書面はシュレッダーで廃棄する。

(オ) データのパスワード管理
電子データであれば、パスワードをかけて不正なアクセスを排除する。情報によりアクセス可能な者の範囲は異なるので、その範囲に対応してパスワードを設定する必要があります。そして、パスワードは「秘密に管理」しなければなりません。

4 権利侵害でないことの保証

契約書において「他人(第三者)の知的財産権を侵害しないことを保証する」と書かれていることが多々あります。「保証する」ということは、前回書きましたが、もし違っていたらその責任は全て負いますよ、ということです。

知的財産権の中には、特許庁で登録される「産業財産権」と、無方式で発生する「著作権」があります。
このうち、著作権は平たくいえば、他人の著作物のマネをするな、という権利です。したがって、デザイナーの方々が、他人のまねをしていない、ということを保証することは可能であると思います。また、依頼者である企業は、提案された創作が他人の著作権を侵害しているかどうかを確認するすべを持っていないと思います。したがって、この条項は妥当であると考えます。

しかし、産業財産権は違います。デザイナーが、「侵害していない」と保証するためには登録されている権利を調査しなければなりません。そして、調査をした上で、他人の権利に抵触するかどうか(類似するかどうか)を判断しなければなりません。類似するかどうかの判断は、専門家である弁理士でも難しい作業です。
なので、産業財産権に関し、侵害しないことの保証を求める契約は無謀な要求であり、調査のための費用を上乗せされても請けてはなりません。
ちなみに、専門職である弁理士も、企業から意匠の類否判断を求められたとき、見解は示しますが「保証」はしません。

 

 活動報告

海外デザイン保護セミナー 受講
「中国における製品デザイン開発とその対応、意匠出願の実務的対応とデザイン保護戦略」

2月27日(木) メルパルク東京で開かれた、(一社)日本デザイン保護協会主催の標記の勉強会に参加してきました。
第1部では、中国企業とのデザイン開発を通して、距離的にこのように近く、感覚的にはまったく遠く感じられる中国という隣国を、どうすれば理解でき、ビジネスパートナーと成れるのかを、実体験エピソードも交えて、中国ビジネス観が語られました。
第2部では、中国の意匠制度について、中国と日本との比較を通して、その相違点、注意すべき点が説明され、具体的に事例と付き合わせられながら実務的な対応と戦略が説明されました。

■概要

第1部/中国企業とのデザイン開発から見えた中国
– 副題 ガラパゴスデザイナー中国へ行く –
古賀治風 氏((株)賀風デザイン代表取締役 インダストリアルデザイナー)

第2部/中国における意匠出願の実務的対応とデザイン保護戦略
藤本 昇 氏(サン・グループ代表 藤本昇特許事務所 所長 弁理士)

日時:2014年2月27日(木) 13:45~17:00
会場:港区芝公園2-5-20 メルパルク東京・4階 孔雀
主催:一般社団法人 日本デザイン保護協会
協賛:一般社団法人 日本食品・バイオ知的財産保護センター
同 :一般社団法人 日本国際知的財産保護協会

引き続きご意見、ご要望等は下記アドレスで受け付けています。
MAIL:info@jpda.or.jp

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