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Vol.66 「知的財産権を侵害しないことの保証」

デザイン業務契約において、「提案デザインは、知的財産に関する権利を侵害しないことを保証する。」ということは、「もし侵害してしまったら、侵害に係る損害に対する責任は全て負います。」ということです。契約書の中に出てくるこの条項を、簡単に受け入れていいのでしょうか?
今回は、知的財産権の「非侵害保証の意味」と、その「関係する法律」を、そして「保証すること」への対処の仕方がまとめられています。契約書に向き合うときに、このレポートを参考にして頂けましたら幸いです。

(2015年4月14日 編集・文責:デザイン保護委員会 委員長 丸山和子)

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 情報発信

知的財産権を侵害しないことの保証

特許業務法人レガート知財事務所 弁理士 峯 唯夫

デザイン業務に関する定型的な契約書に、しばしば「第三者の知的財産権を侵害しないことを保証する」(非侵害保証)という規定が見られます。この規定はどんな意味を持っているのか、そしてデザイナーとして、どのように対応したらよいのかについて解説します。

1 非侵害保証とは

■ パッケージデザインの開発

パッケージデザインの開発においては、パッケージの構造(仕組み)の開発、形状の開発、表面装飾の開発などが発生し、デザイナーはこれら開発の成果を依頼者に提案します。そして、パッケージの構造は特許・実用新案で、形状や表面装飾は意匠で保護される場合があり、また表面装飾は著作権でも保護される場合があります。
「保護される場合がある」ということは逆に言うと、「第三者が特許権や意匠権等を保有している場合がある」ということになります。
依頼者としては、デザイナーから提案されたパッケージデザインを使用して商品を販売したとき、他人の特許権や意匠権を侵害することになると、大きな痛手を被ります。
そこで、デザイナーに「侵害しないこと」を保証させてリスクを回避しようとするのです。

■ 侵害しないことの保証

「侵害しないことを保証する」とは、もし侵害する事態が生じたら責任をとるということです。
侵害によって依頼者が受けた損失を全て賠償しなければなりません。数百万円とか一千万円という金額が請求される可能性もあります。事務所経営にとって大きな痛手になります。小さな事務所では事務所を維持できなくなるおそれさえもあります。


2 保証するためには


■ 非侵害保証の規定に対して

非侵害保証の規定がある契約書にサインした場合、保証するために、デザイナーはどんな作業をしなければならないかを考えてみます。まず、「第三者の知的財産権」にはどんな種類のものが含まれるかを列挙すると、以下のように多彩です。
特許権、実用新案権、意匠権、商標権(以上「産業財産権」)、著作権。ここまではすぐ思いつくと思いますが、他に不正競争防止法(不競法)による保護も含まれてきます。

すなわち、他人の広く知られた商品の形状などと紛らわしいもの、他人の発売後3年を経過しない商品の形態を模倣したもの、これらに該当しないことも保証しなければなりません。


■ 産業財産権

産業財産権の大きな特徴は、権利の存在を知らず偶然同じものとなった場合であっても、権利侵害となることです。したがって、産業財産権を侵害しないことの保証をするためには、権利の存在を調査しなければなりません。
市場を見てもわかりません。

特許情報プラットフォーム(J-Plat pat)(※注 文末)によって調査環境は整備されています。しかしながら、これを使いこなすためには経験とコツが必要であって、だれでもが漏れなく権利の存在を調べることができるものではありません。そして、当てはまりそうな権利が発見できたとしても、開発したデザインが権利に含まれるかどうかを判断することは至難です。専門家である弁理士でも、全ての事案において黒白決着をつけることができるものではありません。目で見ればわかる、と思われそうな意匠や商標でも難しさに変わりはありません。


■ 著作権

著作権は、他人の著作物を見て、それを模倣することが侵害の要件とされています。独自に創作し、偶然他人の著作物に似てしまった、という場合は侵害ではありません。
調査をしなくとも、保証することができます。
他方依頼者としては、デザイナーが模倣をしたかどうかを知るよしもありませんし、知る手段もありません。


■ 混同惹起行為

他人の広く知られた商品の形状などと紛らわしい商品の販売は、不競法2条1項1号で禁止されています。
偶然の一致もアウトです。

市場を見ればある程度は分かると思いますが、直感で判断することはできません。「広く知られている」かどうか、「紛らわしい」かどうかという判断は一筋縄ではいきません。
産業財産権の権利解釈と同様、専門家でも結論が別れることは多々あります。


■ 形態模倣行為

発売後3年を経過しない他人の商品の形態を模倣した商品の販売は、不競法2条1項3号で禁止されています。
著作権と同様に「模倣」でなければ問題になりません。
独自に創作し、偶然他人の商品の形態に似てしまった、という場合は侵害ではありません。調査をしなくとも、保証することができます。

3 どう対応するか


侵害しないことの保証は、なるべく入れない方が好ましいです。以下、各法律毎に見てみましょう。

■ 産業財産権


侵害しないことを保証するためには、調査をし、権利の解釈をするという非常に難しい作業が必要です。デザイナーが保証するには荷が重すぎます。
「保証しない」が好ましい対応です。

どうしても保証しなければならないという事情もあるかもしれません。そのときは、デザインを提示する際に、どのような手順で調査をしたのか(検索のキーワード、検索対象資料など)を記載した報告書を依頼者に提出し、調査義務を果たしたことを明らかにしておくなど、保証するための努力をしていることを示すことが、トラブルの際に役立つのではないかと思います。


■ 著作権

模倣したかどうかはデザイナー自身が一番知っているのであり、他人の著作物を模倣していない、ということであれば著作権侵害はないので、これは保証してよいといえます。しかしながら、無意識のうちに他人の著作物に近いものを創作してしまうこともあり得ます。また、他人の著作物からどのくらい離れれば侵害にならないか、という判断も困難です。

そこで、「私の知り得る限りでは」というような留保をつけることをお勧めします。


■ 混同惹起行為

他人の商品の形態などが有名であるか、混同するおそれがあるかなどの評価が必要なので、デザイナーが判断することはできません。
絶対に保証してはなりません。

どうしても保証しなければならない場合、「私の知る限り最も近いデザインはこれです」というような情報を提示し、保証するための努力をしていることを示すことをお勧めします。


■ 形態模倣行為


模倣したかどうかはデザイナー自身が一番知っているのであり、著作権と同様、保証してよいといえますが、「私の知り得る限りでは」というような留保をつけることをお勧めします。

■ どうしても保証しなければならない場合

補償額の上限を設定するとよいでしょう。
結果的に依頼者が使えないデザインを提供したことに対する補償と捉えて、責任をとれる上限の額を話し合うことをお勧めします。依頼者が同意すれば、受注金額を上限とすることが妥当ではないかと思います。


4 開発ノートの勧め


著作権や形態模倣のように、模倣が要件になっている場合、もしクレームを受けたときには模倣をしていないことを示さなければなりません。
「模倣していない」ことの立証のために、デザイン過程を示す資料を、日付を記載して保管しておくことが必要です。技術者が作成する「研究ノート」のような「デザイン開発ノート」の作成をお勧めします。
(以上)
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※注 登録公報の調査方法:特許電子図書館(IPDL)は2015年3月20日終了となり、2015年3月23日から特許情報プラットフォーム「J-Plat Pat」に移行しました。
http://www.inpit.go.jp/info/j_platpat_info/index.html
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 活動報告

日本デザイン保護協会 デザイン保護のための集中講座 受講レポート
SEMINAR_About

第3部:「企業におけるデザイン保護戦略」 レポート
時田 秀久:デザイン保護委員会 委員/凸版印刷株式会社トッパンアイデアセンター・アートディレクター


上記の3つのテーマでの集中講座に出席して、今回は第3講座として行われた「企業におけるデザイン保護戦略」を受講しての感想を述べてみたいと思います。


お話しいただいたのは、その名前を聞けば、どなたもご存知の日本を代表する企業の知財セクションに所属する方でした。どちらかといえばインダストリアルデザインに関連する業務が多いかと推察いたしましたが(もちろん所謂グラフィック・商標に関しても関与されていますが)、一番感じたのは、企業として他者の知財に関する認識が非常に高いなということです。企業の規模や社会性から考えて、一旦知財に関するトラブルを起こせば大きな問題に発展するというのは容易に推測できますが、お話しを伺って「そこまでおやりになっているのだ!」というのが率直な感想でした。


私が日常行っているのは、まず表現ありきで、その後、その表現されたものが他者の権利に抵触していないかを知財セクションに調査を依頼するというのが通常のパターンです。もちろん、表現に入る前に、今までの知見として常に他者の権利を意識して業務を進行しているというのは当然ですが!


お話しに出てきたのは「知財マップの作成」という言葉でした。開発テーマが決定して、いざ表現に入る前に「これから表現していこうというジャンルにどのような他者の権利が存在しているのか」を公報・図版を含めてマッピングしたものを作成して検討・確認するということです。このようなマップを作成し、事前に存在する他者の権利を確認するとともに、表現の進行に当たっても常に確認しつつ作業を進めて行くことによって、よりクリアな表現が可能になるなぁと感じました。


自己の表現に先立って、まず他者の権利を侵害しないというスタンスは、デザイン保護の精神からいってもとても大切なことだと思います。知財セクションとクリエイティブの2人3脚というスタンスで、後追いの調査に比べて表現のスタート時点から両者が情報を共有することができ、非常に効率的だと感じました。今後、機会をとらえて、是非やってみたいと考えております。


委員会ヒトコト通信

【意匠の国際出願】ー意匠の国際登録に関するハーグ協定ー

山本 典弘:デザイン保護委員会 委員/弁理士


平成27年5月13日(2015年5月13日)以降「ハーグ協定のジュネーブ改正協定」に基づく意匠の国際出願制度が、日本でも利用できるようになります。


多数の国で意匠権を取得する場合に、手続きが簡易で、かつ比較的に安価でできるようになります。
従来、日本からA国、B国、C国で意匠権を取得する場合には、それぞれの国毎に、かつ、その国の言語で出願して意匠権を得て、国毎に意匠権を管理する必要がありました。
今回の条約加入により、A国〜C国が条約締約国であれば、1つの国際出願(英語など)で各国で意匠権を取得することも可能となり、取得後は、国際登録のみを維持管理すれば、A国、B国、C国での管理は不要となります。
ただし、この制度では、出願が拒絶になっても出願内容が公表される(国際意匠公報)など、不都合な面も多々ありますので、今後、充分研究して活用してください。デザイン保護委員会でも情報を提供します。
参照:特許庁HP    http://www.jpo.go.jp/seido/s_ishou/hague-geneva.htm
JPO_Illustrated_700図表は特許庁HP上記ウェブサイトより転載しています。

引き続きご意見、ご要望等は下記アドレスで受け付けています。
MAIL:info@jpda.or.jp

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