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Vol.74 「意匠登録出願で拒絶理由通知が発せられる!」

前号で、2014715日を「新規性の喪失日」として、その「証明書」を揃え公開日から6か月以内に出願の手続を済ませた、「新規性の喪失の例外規定による意匠登録」の事例を紹介しました。しかし出願手続きの後に、「意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠(先行の公知意匠に類似するため、意匠登録を受けることのできない意匠)に該当します。」という、思いもしなかった内容の拒絶理由通知書が届きました。

その内容としては、審査官がインターネット上で発見した製品の意匠が、出願された意匠と類似性があるためとしたもので、その「引用意匠」(対比された製品の意匠)の公知日(広く知られた日)が2014710日となっています。そして、その引用意匠は、まさに意匠登録出願したそのものです。

今号では、どのような対応を経て無事に登録が成されたのかの経緯が示されています。著者が末尾にまとめとして書かれている提言も、デザインをビジネスにするときに重要なことです。
なお、欧州意匠登録制度で登録された意匠(正面図)と、米国意匠で登録された意匠(正面図)が参考として掲載されています。

●活動報告では、委員会内部勉強会をレポートしています。委員会では、このような内部勉強会を継続して「今!」の知財の知識を吸収し、皆様にご案内する次のセミナー・テーマを見つけ出していこうと考えております。ご期待ください。

(2015年12月15日 編集・文責:デザイン保護委員会 委員長 丸山和子)

◆このページに限らずVol.1〜これまでに掲載した内容は著作権・他で保護されています。
無断転用はお断りいたします。引用の場合は引用部分を明確にし、出所の明示をお願いいたします。

 

 情報発信

新規性の喪失の例外規定により意匠登録をする(後編)

羽切特許事務所 弁理士 羽切 正治(ハギリ マサハル)

 

3. 突然の拒絶理由通知から登録に至るまで (※ 3. は前編からの通し番号です。)

本件意匠登録出願は、審査官による審査を経て、拒絶理由通知が発せられました。通常、拒絶理由通知が発せられても、登録要件を欠くという理由であれば、それほど驚きませんが、その理由に驚かされました。

(1)拒絶理由通知書の内容(以下に拒絶理由通知書記載)

vol.74_image1

 

(※なお、「facebook」は、フェイスブック・インコーポレイテッドの商標です。(著者注記。))

 

(2)新規性喪失日に注目

 ① 本件意匠登録出願の新規性喪失日は、 平成26年7月15日
 ② 拒絶理由通知で通知された新規性喪失日は、平成26年7月10日(facebookの日付)
 ③ 本件意匠登録出願の出願日は、平成26年10月28日
 ④ 新規性喪失の例外の証明書提出期限は、平成27年1月15日
 ⑤ 拒絶理由通知の発送日は、平成27年2月27日(検索日は2015年2月24日

(3)審査官への電話

最初に私どもが驚いたのは、拒絶理由通知を受け取ったとき、新規性喪失日は平成26年7月15日のはずなのに依頼者自ら平成26年7月10日facebookに発表した事実があるということを初めて知ったからです。
私どもとしては 平成27年1月15日まで再度意匠登録出願をする機会があったので、もう少し審査が早ければ間に合ったという気持ちから早速、審査官に電話して何か方法はないかということを問合せしましたが方法はないと言われてしまいました。
依頼者に、この事実を知らせたところ、自分の責任であり仕方がないという気持ちが強く表れており落胆していたのがよくわかりました。

(4)依頼者からの新規性喪失に至った事実の調査

通常、拒絶理由通知が発送されてから40日の反論期間が与えられていますので、依頼者との打ち合わせを早速行った結果、依頼者は平成26年7月10日付けのfacebookは「非公開」にしていたという事実がわかりました。そして、それが現在も「公開」された状態で掲載され検索できるという事実が確認されました。

依頼者との打ち合わせにより、当初、意匠登録出願をした「枕」の意匠の名称は、「おうちまくら」としたこと、したがって本件意匠登録出願の新規性喪失日は、 平成26年7月15日の時点での「枕」の意匠の名称は、「おうちまくら」となっていました。

次に、依頼者は、「おうちまくら」の名称を用いて、 “ホームページの制作”、“報道関係者各位/プレスリリース”、2014年7月15日に行ったのですが、まず、 “ホームページの制作”は、A社に依頼し、 “報道関係者各位/プレスリリース”については、B社に依頼しました。

まず、依頼者は、 “ホームページの制作”の原稿を作成するために、 facebookを利用して行いました。

依頼者は、このfacebookの原稿を作成した日が、「平成26年7月10日」であり、この段階では、 facebookは「非公開」であり、 “ホームページの制作”会社A社とメール等でのやり取りも行っていました。したがって、facebook上もホームページとほぼ同じ内容の記載がなされています。

依頼者は、当初「枕」の意匠の名称、すなわち商標は、「おうちまくら」としていましたが、商標「おうちまくら」は商標「タビマクラ/旅まくら」に変更され、 平成26年9月25日(2014.9.25)、商標登録出願(商願2014-80856)、商標登録第5740808号として平成27年2月13日に登録されました。

(5)上記のような調査事実のみでは、拒絶理由に打ち勝つことはできません

なぜなら、依頼者は、 “ホームページの制作”会社であるA社に対して、依頼者自らfacebookを用いて原稿を作成し、その時点では「非公開」であったという事実を証明することができず、また、facebookの原稿を作成した日が、「平成26年7月10日」であるという事実も依頼者自ら認めているからです。
そして、依頼者自ら作成したfacebookがいつの間にか「公開」となっており、これを誰でもが縦覧できる状態となっているからです。これによって、審査官は、拒絶理由通知の理由として引用してきました。
さあ、以上の説明により皆さんもおかしいとお気づきになりましたか?それでは、どうしたらいいでしょう。

(6)必要な書面の提出

(a)特許庁の審査官から発せられる拒絶理由通知に対しては、皆さんも既にご承知のことと思いますが、意見書・手続補正書などを提出することができます。

(b)今回は、意見書に添付する書類として、依頼者が新規性喪失に至った経緯を示すために、「陳述書」という書式で、依頼者に書面を作成していただきました。(この「陳述書」の詳細をご覧になりたい方は、既に本件は登録されていますので、書類閲覧をすることによってみることができると思います。)
では、本件には論点がいくつかありますので、順番に見ていくことにしましょう。

(7)論点

ア.拒絶理由通知について
(a)審査官が拒絶理由通知で引用したfacebookは、検索日が2015年2月24日であり、公知日が、 2014年7月10日である点にあります。

(b) 商標は、検索されたfacebookのページは「旅まくら(旧名:おうちまくら)」となっています。
⇒そもそも、 当初「枕」の意匠の名称、すなわち商標は、「おうちまくら」であったのですから、審査官が引用したfacebookは、公開された状態のもので、2014年7月10日時点のものではなかったのではないか、という点です。

イ.拒絶理由通知の日付である「2014年7月10日」が新規性の喪失が至った日として確定される日付であるかどうか?
我々は、facebookの不思議な現象を発見しました。以下に示しましょう。

ウ.インターネットの検索エンジンを用いて、依頼者に当初送っていただいた画面の日付は、 「2014年7月10日」だったのですが、私どもが異なる端末で検索すると、1日ずれた「2014年7月11日」の日付で検索されたのです。この現象の理由はよくわからないのですが、サーバーが日本にないからなのではないか、と推測されます。
⇒これは、法律上、 新規性喪失に至った日を確定させるための日付とはなりえないものです。皆さんは、確定日付の意味は、既にご理解いただけていると思います。

エ.そうであるとすると、依頼者が、「非公開」であったとした「平成26年7月10日」は、 「新規性喪失に至った日を確定させるための日付とはなりえないもの」といえますから、このような事実を意見書において主張しました。

以上のような主張により、本件意匠は、無事に登録されました。

欧州意匠と米国意匠の登録図面

次に、参考までに、欧州意匠登録制度で登録された意匠(正面図)と、米国意匠で登録された意匠(正面図)を下記に示します。

(4-1) 欧州意匠登録制度で登録された意匠(正面図)

(4-2)米国意匠で登録された意匠(正面図)

5. まとめ 

本件についてご紹介したのは、日常で使用しているインターネットなどを利用して、創作した意匠や発明などを1日でも早く発表しようという気持ちが先に立つのが現実的なところと思います。
しかし、法律的には、発表した時点で、原則として、新規性の喪失に至った、ということになりますから、皆さんもせっかく創作した意匠などを発表するときはご注意ください。今回の事例は、たまたま依頼者の希望に沿う形で解決できましたが、その過程はかなり大変なものでした。
また、日本のみならず、海外への展開を考える場合には、国ごとに制度が違うということを思い出すようにしてください。 この事例紹介がお役に立てれば幸いです。

以 上

 

 活動報告

委員会内部勉強会 「レンタルフォトに係わる権利とトラブル・Q&A」

2015年11月30(月) 18:3021:00 於:(株)NICK会議室
(報告:JPDAデザイン保護委員会委員/時田 秀久)

ご承知のように、デザイン保護委員会では、会員の皆様の知財に関する知識・認識の向上を目的として、今までに多くのセミナーを開催してまいりました。そのような状況の中で、委員自身の知財に関する知識をもっと上げていかなくては、会員の皆さまの質問にも満足に答えられないのではないかという声が委員会内部で持ち上がり、しばらく中止しておりました内部勉強会が委員会と同日開催で実施されました。

今回のテーマは、皆様方にも非常に身近な「レンタルフォトに係わる権利とトラブル・Q&A」として、ゲッティイメージズのエージェンシー営業部部長と、カスタマー担当弁理士をお招きして、レンタルフォトの権利に関する基本的なレクチャーと、今までに起きた多様なトラブルの事例をご紹介いただき、利用者サイドのどこに問題があるのか?又、提供者として、どのような対応をして行くべきなのか?等の詳しい説明を受けることができました。

レンタルフォトの扱いに関しては、昨今世間を騒がせている事例を持ち出すまでも無く、通常業務の中でほとんど意識することなく触れているのが実情かと思います。特にデジタル化社会の中で、簡単にダウンロードできる環境にあることから、本来充分な注意を払って扱わなければならない存在であることを、つい失念して、予想外のトラブルに巻き込まれる状況にあると言っても過言ではないのかと思います。

出席した委員からも実際のデザイン業務においての経験からくる、様々な質問・疑問を投げかけ、予定時間を大幅に超過して終了いたしました。もちろんビジネスですので、基本的にはエージェンシーに利益をもたらすことが前提ですが、そのなかで講師からの「基本的なスタンスは、『如何にフォトグラファーの各種の権利を守って行くか』です。」という発言には、創作者を尊重するアメリカの思想を強く感じました。
私自身は、業務柄ほとんどエージェンシーにお世話になることは無く、少ない経験から「売りっぱなし、何とか費用を吊り上げよう。」のようなニュアンスを持っていたのですが、「トラブルの可能性が予想されるケースには保険システムがあります。」というお話を伺って、「なるほど、下手に悩みを抱えて進行することなく相談すればいいのか!」と感じました。

以上

委員会ヒトコト通信

JPDA デザインセミナーで、「デザインと知財」のミニ講義を担当しました

(2015年11月26日(木) 於:DIC株式会社 本社2F 大会議室)

経験年数5年以下の若手パッケージデザイナーと、これからパッケージデザイナーを目指す学生の方を対象とした「JPDA 第42回 パッケージデザインセミナー」で、クリエイティブを学ぶ授業が続く最後の一コマに、「デザインと知財をデザイナーの目線から伝える」機会をいただきました。これまでの委員会実施セミナーでは業務経験の長い参加者が多かったのですが、今回は全く新しい受け皿にそそぐ知識をどう選べばよいのか、それも短い時間内ということで、その点に苦労しましたが、伝える立場にとっては良い経験でした。
より解りやすい方法を探していかなくてはと、委員会での新しい課題を持ちました。

デザインの保護とは、「デザインの価値」を護り、「産業の発展」に繋がり、「デザインの社会的な地位」を高めるためのものであり、そのためにも、デザインの現場が「デザイン」の価値を護る最前線だといえると思います。日常業務の中で若手のデザイナーも、知的財産に係る知識をあたりまえのこととして身近に受け止めて欲しいと願っています。(記:講義担当 丸山和子)

引き続きご意見、ご要望等は下記アドレスで受け付けています。
MAIL:info@jpda.or.jp

 

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