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Vol.87 「“事例紹介” デザイナーが向き合った意匠権侵害差止訴訟-最高裁までの道-」

創作したデザインの知財保護のために意匠権登録を行ったデザイナーが、たまたま市場で登録意匠に類似すると思われる形状デザインをパッケージに使用した商品に出会い、登録意匠の意匠権者として自ら訴訟という事件に向かい合うことになりました。

提訴から第一審、そして控訴審としての第二審でも、判決の結論は「両意匠は類似しない」とするものでした。しかし、その判断は受け入れがたく、“意匠権の持つ力とはどのようなものなのか”という疑問を解くために、意匠権の真実を求めて上告受理申立てをしたのですが、上告審として受理されませんでした。

警告書の送付から提訴、そして裁判と2年半に及ぶ戦いは残念な結果に終わりましたが、なお、判決に残る疑問を解くために原告として改めて事件を振り返って整理しています。

<意匠権侵害に対して登録意匠の創作の価値はどう反映されるのか>を確認するために、本号では本件登録意匠の登録の内容と保護の範囲を整理し、相手意匠との対比を行っています。その後に、次号で、控訴審判決の示す判断と、その中にある疑問点をあげ、<登録意匠の本質的な価値としての意匠権の力><登録の価値とその創作性>との結びつきについて考えています。

(2017年1月30日 編集・文責:デザイン保護委員会 委員長 丸山和子)

◆このページに限らずVol.1〜これまでに掲載した内容は著作権・他で保護されています。
無断転用はお断りいたします。引用の場合は引用部分を明確にし、出所の明示をお願いいたします。


 情報発信
意匠権侵害に対して登録意匠の創作の価値はどう反映されるのか
丸山デザイン事務所 代表 丸山和子

本稿は、知的財産法・知的財産権の専門家でなく、パッケージのコンストラクションデザインを生業とするデザイナーが、意匠権に託したパッケージデザインの外観形状に対しての保護を、意匠権侵害差止事件として、その類否判断についてを裁判で戦った、事件の始まりから終わりまでを振り返って整理したものです。

筆者は公益社団法人日本パッケージデザイン協会デザイン保護委員会委員長として、本レポートページの編集者として責任を持つ立場にありますが、本号には、全くの一人のデザイナー個人として寄稿しています。したがって、本裁判において、公益社団法人日本パッケージデザイン協会及び同デザイン保護委員会は何ら関与するものではありません。

本稿は、2016東京国際包装展(TOKYO PACK) 併載 「パッケージデザインパビリオン」内でのパッケージデザインセミナーにおいて、会期中の105日に行われた知財編、「それは一枚の警告書から始まった」をタイトルとするリレー講演の後半担当部分で、サブ・タイトルを<警告書から始まった最高裁までの道>とした講演内容も取り入れて再構成しています。

はじめに-
筆者はパッケージのコンストラクションデザイナーとしてデザインの創作を40年以上続けています。パッケージのコンストラクションデザインとは、包装容器の形態を創意工夫し、「形」として表現するデザインです。
また、デザインを提供する立場として、デザインには創作物としての価値があること、そして、自身の創作の価値を護り、同時に他者の創作の価値をも護ることが、創作物としてのデザインに対するオリジナリティの信頼を産業社会に育むことになるとして、デザイン業務と並行して、「デザインの知的財産としての価値と権利、その保護の啓蒙活動」を実践してきました。その中で、「デザイン保護活動」を、より確かなものにするための、「知的財産権とはどういうものか?そのデザインとの関わり方は?」と、勉強も重ねてきました。

そして、意匠法がその目的として、意匠法第1条に【この法律は、意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする。】と記載されていることから、産業に役立つ創作を生業とするデザイナーにとって関係の深いものであることを知りました。

また、意匠権は< 知らなかったでは済まない絶対的な権利 >として、大きな力を持つものであり、登録意匠と対比する意匠が類似と判断されれば、その意匠を使用した商品は意匠権を侵害するとして排除することができることを学びました。そして、自身のパッケージデザインの商品展開のために、その強い力を拠り所とするため意匠出願をしました。

そのようにして、デザインの権利と保護を護る活動を進め、また、自身のデザイン創作を護るために意匠出願と登録を実践してきた<一人のデザイナー>にとって、身近な事件として起こった意匠権侵害と思われる出来事は、見過ごすことができませんでした。

 

1事件の発端

平成26年(2014年)のバレンタイン商戦只中に、その「商品」を有名百貨店の洋菓子売りに偶然発見しました。<相手商品の写真>

それは、筆者がちょうど同時期にビッグサイトで開催中のギフトショーに、オリジナルギフトパッケージとして展示したシリーズの中心的なものであり、JPDAのパッケージデザイン作品集「PACKAGE DESIGN INDEX 2014」に掲載したデザインで、これからパッケージのフォルムデザインをブランド展開するために既に意匠登録を済ませていたものに似ていると思わせるパッケージの形状でした。

下図は実施したパッケージデザインの展開を示す展示会使用のパネルの1枚です。
3点のデザインのうち、上部に位置する紫色のパッケージが本件の登録意匠からの実施デザインです。

 

2.本件登録意匠とその登録の範囲

意匠法24条1項には【登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添附した図面に記載され又は願書に添附した写真、ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基いて定めなければならない。】との規定があります。

◆本件登録意匠の意匠公報の記載から、登録の範囲は次の内容になります。
・【意匠に係る物品】は包装用箱であること。
・【部分意匠】であること。
・【創作者】及び、【意匠権者】は筆者本人であること。
・【意匠の説明】欄の「実線で表した部分が、意匠登録を受けようとした部分である。」 と記載され、
・【意匠に係る物品の説明】に、「4面で形成される三角錐形状を基本形とした構造体の頂点と底面を形成する点とを2本の折れ曲がった線で結ぶことにより、新たにアクセントパネルとしての面が生まれ、多面体としての新しい見え方を可能にしている包装用箱である。」と説明されています。
・【六面図、斜視図、参考図】の記載があり、下図は斜視図です。<出願書面記載の本件登録意匠の斜視図>

上記【意匠の説明】欄記載の意味は、実線で表した部分が登録を受ける部分であり、したがって、破線で現わした部分は登録を受ける部分以外の部分となり、権利の範囲としての保護を要求しないところです。
そして、【部分意匠】として登録された意匠であることが記載されています。
したがって、本件登録意匠の登録の範囲は、多面体としての略三角錐形状としての外観全体として認定されたといえます。

◆上記【意匠に係る物品の説明】と「6面図」から本件登録意匠を言葉で表すと以下になります。
①三角錐の一つの稜線の端から端への全体にわたって斜めに現れる面を持つ多面体である。
そして、その面の形態は、
②中央部分が最も幅広で、かつ、
③中央部分が最もへこんだ凹状の面で、
④両側が対称形に向かい合った線で囲まれた略菱形状をしている。
意匠法241項に定められた規定にのっとって、本件登録意匠が登録の範囲としたのは「外観全体が持つ装飾的な効果を美感として表現した外観全体のフォルム」です。その権利範囲の中に開口機能に係る技術的な意匠は含まれていません。

部分意匠について

部分意匠制度は、意匠を構成する多くの要素を、「ここが創作のポイント!」と絞り込んで、その部分だけを保護の範囲に指定することができる制度です。
意匠において、創作の価値を持つ部分の保護を目的としたものです。そして、その部分は意匠権における登録の価値のあるところといえます。

物品の部分の保護、「部分意匠制度」の制定の目的
そして、部分意匠制度導入趣旨については、『独創的で特徴ある部分を取り入れつつ意匠全体で侵害を避ける巧妙な模倣が増加し、十分にその投資を保護することができないものとなっていたことから、物品の部分に係る意匠も保護対象となるように改正したものである。』(編集 特許庁「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説」より)とあります。

意匠登録する意匠は、物品ですから何らかの用途として役に立つ機能を持つものですが、部分意匠の場合は必ずしもその機能的意匠を登録の範囲に含める必要はありません。
もちろん、機能的な工夫の保護は、形状に現れない限り意匠法の保護の範囲には入りません。
(※技術的思想の創作である発明や考案は特許法・実用新案法の保護の範囲となります。)

『意匠の創作は、特許法における発明、実用新案法における考案と同じく、象徴的なものである。しかし、発明、考案が自然法則を利用した技術的思想の創作であり、特許法、実用新案法はその側面からの保護を目的としているのに対し、意匠法は二条一項の表現からも明らかなように美感の面からアイデアを把握し、これを保護しようとするものである。すなわち、特許法及び実用新案法と意匠法とでは保護の方法が異なるのである。』(編集 特許庁「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説」)より※下線は筆者による。

意匠法2条1項
【この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。第8条を除き、以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。】

ここには、意匠法による保護の対象が、あくまで視覚により感じることのできるアイデアの表現だと示されています。そして、意匠の部分の保護があることも記載され、「物品の部分」すなわち、「部分意匠」も意匠であることが定義されています。

 

3.本件登録意匠の価値を示す創作性のある部分

改めて、創作者として創作の意図を説明しますと、「登録を受ける価値を外観形状<フォルムのデザイン>においたものであり、外観からの美感である装飾的効果をスタイリングとしてフォルムに結実させるというデザインコンセプトにとって、破線で現わされたもう「一つの面」は、その存在の可能性を示すものでしかなく、同様に破線で現わされた「開口部蓋」は物品としての開口機能が有ることを例示するためのものでしかなく、必ずしも、この位置にこのスタイルで存在する必要は無い部分です。
上記の理由によって、破線部が決定されました。

本件登録意匠の斜視図から、登録を受ける部分を示すと下記の右図になります。

<本件登録意匠の斜視図>   <本件登録意匠の登録の範囲からの構成態様説明図>

本件登録意匠の斜視図の示す、この略三角錐形状の外観において、一本の稜線部の面と蓋を破線であらわし、この部分は、登録を受けない部分としています。 そして、上記右図の<本件登録意匠の登録の範囲からの構成態様説明図>が示す態様である、「一つの稜線にアクセントパネルを持つ略三角錐状の多面体」の外観形状が、「ひとまとまりの形」として登録を受ける部分であることが認められたことになります。

言い換えれば、創作の意図・出願の意図は、この外観を現わすフォルムそのものを保護したい部分とするものであり、登録となったことは、このひとまとまりの形状が新規な意匠(※注:下記)として創作性を認められたといえ、登録の価値があることとなります。

そこに物品としての機能を表現する意匠的工夫は入っていません。

※注<参考文献の記載なし>

本件登録意匠の公報には参考文献の記載は有りません。
意匠登録の審査においても同様の構成態様を備えた意匠が発見されていないことは、「参考意匠」が掲記されていないことからも推認できます。つまり、これまでに類似する意匠が無かったことを意味するといえます。

 

4.相手商品

この商品は、少なくとも平成2618日から、関連する全国の店舗、有名百貨店等の売り場の合計83か所、及び、公式オンラインショップ通販サイトにおいて、平成26年のバレンタイン商戦向けに販売されたものです。
中味の焼き菓子は、既にパッケージに詰められ、封緘された状態バレンタインギフトの商品として、最初に出会った百貨店だけでなく、銀座本店のショーケース上に、またその他の百貨店の売り場でも、商品として完成された状態で商品カウンターの上にきれいにディスプレイされ販売されていました。

相手商品の形態の構成態様を見てみましょう。

<相手商品>         <相手商品の意匠の構成態様説明図>

左写真が相手商品、右図が相手商品のパッケージのフォルムの構成を整理したものです。
相手商品のパッケージの態様は、単なる三角錐ではなく、「一つの稜線の全体に、アクセントパネルを持つ略三角錐状の多面体」です。
このパッケージデザインの外観形状は、本件登録意匠の登録の範囲である外観形状と共通すると思われます。

 

5.両意匠について

改めて本件登録意匠と相手意匠のデザイン構成を比べてみます。

<共通点>
相手意匠は、明らかに本件登録意匠の外観形状である、「一つの稜線の全体にアクセントパネルを持つ略三角錐状の多面体」を外観形状に持つことで、両意匠は共通します。
そして両意匠のアクセントパネルは外観を構成するパーツとして、「意匠全体の装飾性」を高める役割を持つことで共通し、その意匠的機能が意匠としての形状に現れていることで共通します。

<差異点>
両意匠は、アクセントパネルの面自体の形状に違いがあります。一方は略菱形状、他方は略紡錘形状です。

<類否の判断>
両意匠は、本件登録意匠が創作の価値を認められて登録となったその外観を構成する骨格的態様であるところの、一つの稜線の全体にアクセントパネルを持つ略三角錐状の多面体であることで共通します。
両意匠共に、その骨格的態様の構成要素であるアクセントパネルは、外観を示す略三角錐形状の一つの稜線の、端から端までの全体にわたって配置され、したがって斜めに現れていることで共通し、その中央部分は最も幅広で、かつ、中央部分で最もへこんだ凹状の面であることで共通し、対称形に向かい合った2本の線で囲まれていることで共通します。
両意匠のアクセントパネルは、「意匠全体の装飾性」を高める役割を持つことで共通し、その意匠的機能が意匠としての形状に現れていることで共通します。
差異点とされるアクセントパネルの面形状自体は、本件登録意匠は略菱形状、相手意匠は略紡錘形状で、世の中に古くからある「ありふれた形状」であるため創作性は無く、したがってアクセントパネル部分のみでは意匠32項に該当し、登録要件を満たすことはできないものであり、侵害の類否判断において大きな影響力は無いとされる類似の範囲に入ると考えられます。

意匠法3条2項には、意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができた時は、その意匠については、意匠登録を受けることができない旨が記載されています。

<結論>
したがって、本件登録意匠と相手商品のパッケージの意匠は類似すると思われます。

ここで意匠権の力を確認したいと思います。
意匠権は、著作権とは違い、登録となった事実において、本件登録意匠に同一、又は、類似する他人の意匠を、知らなかったでは済ませず排除できる絶対的な強い権利です。
意匠権者は侵害行為の差し止め、損害賠償請求などを求めることができる権利を持ちます。

 

6.警告書を送る

ここまでの両意匠の対比から、明らかに本件登録意匠に類似し、その権利を侵害するとして相手方に登録した意匠権に基づき<警告通知書>を送りました。

この後に、相手方から「類似しないため侵害ではない」旨の回答書が届きましたが、その主旨は受け入れられないため、法の判断を求めて提訴することにしました。
本稿はここまでとし、「裁判所の判決についてとその問うべきところ」は号を改めます。

以上

 

 活動報告

D-8(日本デザイン団体協議会) デザイン保護研究会 参加報告

今期、第5回として128日(木)18:3020:00に、今期の幹事団体である(JID)公社日本インテリアデザイナー協会の事務局会議室:新宿パークタワー・リビングデザインセンターOZONE 8階に於いて開催された研究会に参加しました。

<第5回 12月8日(木) D-8デザイン保護研究会 概要報告>
参加者:7
各協会デザイン保護担当委員: JID/3名、JIDA1名、JPDA1名、JJDA1名、JAGDA1
欠席協会: JCDA SDADSA
議長:JIDA

議事内容の概要
1. 創作証の普及について、D-8各団体のデザイン事情の意見交換
2. 創作証の制度制定の目的の確認と創作証がこれから目指すものについての検討

この研究会は、第3回として826日(金)、第4回として1027日(木)に開催されています。
3回、第4回では、前期から研究会のテーマとしてきた、「健全な事業環境構築のために提案すべきこと」のために、デザイン作業のデジタル化、デザイン料の低迷、クラウドソーシングについて、インターネットを介してデザイン業務を仲介するビジネスモデルが台頭してきていること、そこに含まれる問題点について続けて意見交換がなされ、第4回で、このテーマの研究はひとまず終了となりました。

※次回開催予定:201729日(木) 18:30JID事務局 会議室

引き続きご意見、ご要望等は下記アドレスで受け付けています。
MAIL:info@jpda.or.jp

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