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Vol.88 「“事例紹介”登録意匠の本質的な価値と侵害における意匠権の力」

前号(Vol.87)では、創作者であり意匠権者であるデザイナーが、本件の登録意匠の登録の価値が何処にあるのかの見極めと、その部分に対する相手意匠との対比について整理し、両意匠は類似するとの結論に至ったため警告書を送り、相手方から「類似しないため侵害ではない」旨の回答書が届いたことに対し、法の判断を求めて提訴したところまでの寄稿原稿を事例紹介として掲載しました。
本号は、デザインを創作し実施する立場から、裁判所の判断とその違和感についてをまとめ、デザインコンセプトに基づいた創作の保護を意匠権に託した登録意匠の本質的な価値が、裁判所の判断にはどのように反映されたのかを確認しています。

(2017年3月2日 編集・文責:デザイン保護委員会 委員長 丸山和子)

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 情報発信
創作者として意匠権侵害差止訴訟の裁判所の判断を振り返る
丸山デザイン事務所 代表 丸山和子

東京地方裁判所の判決では、原告の「両意匠は類似し被告意匠は原告意匠を侵害する。」との主張は認められず敗訴となりました。しかし、本件登録意匠の構成態様に対する解釈と評価、及び両意匠の類否に関する裁判所の判断は納得できませんでした。
このような判決の示す判断が、「類似する意匠にまで及ぶ意匠権の力」に対するものであるなら、これまでに進めてきたデザインの意匠権による知財保護は何であったのかと思い、そのため、さらなる判断を求めて、知的財産高等裁判所に控訴しました。しかし、控訴審でも、「両意匠は類似しないため、被告意匠は原告意匠を侵害しない。」とされました。

本号では、意匠登録することの意味と登録意匠の本質的な価値を確かめるために、控訴審判決に対しての考察を進めています。(文中の下線は判決文も含めて筆者)

1.  本件登録意匠の登録の目的

改めて、本件の登録意匠をみてみます。

<ひとまとまりの外観形状からの美感>
本件登録意匠の物品名は包装用箱(パッケージ)であり、そのデザインの目的は市場に出たときに、そのスタイルが顧客の目を引きつけ、そこが購入の動機となることにあります。
そのために登録の対象を、直観で受け止められるパッケージの「形状」そのものとし、外観からの印象を生み出すフォルムのスタイリングに対する創作性の保護を出願し、「一つの稜線にアクセントパネルを持つ略三角錐状の多面体」の外観形状が、「ひとまとまりの形」として美感を与える部分として認められ、登録となったものです。      (実施デザイン)         (本件登録意匠の斜視図)

 

<本件登録意匠は、【部分意匠制度】を利用して出願し登録となる>
◆登録の範囲とする「部分」とは
本件の場合は部分意匠とはいえ、登録の範囲とするのは、物品のパーツとして部品的な役割を果たす、例えば「冷蔵庫のドアのノブ」のような部分ではなく、意匠の骨格を示す外観全体の形状を登録の権利範囲とし保護を受ける部分としています。
そして、破線部を含まなくても骨格的態様を示すことが可能な意匠です。

◆登録の範囲に「使用の機能」を含まない
製品のためのデザインとして当然持つべき物品としての「使用の機能」(本件登録意匠の場合は開口部)は、登録の目的(創作の意図)の実現のため、登録したい部分には含めていません。

◆デザイン展開の可能性がある意匠
出願する創作意図(デザインコンセプト)は創作物の骨格的な態様にあり、具体的な態様(細部のバリエーション)は、登録意匠の保護の範囲において、デザイン展開の可能性を持つものとして、部分意匠制度を利用したのです。

2. 本件に対する、控訴審である知的財産高等裁判所の判決についての考察

本件の判決にある疑問点を、創作者(デザイナー)の立場からの違和感としてみていきます。

<裁判所の認定について>
裁判所の判断は、まず、本件登録意匠の基本的構成態様が登録の価値のある部分として、要部であるとしています。そして相手意匠もこの基本的構成態様を共通して持つと認定しています。
しかし、本件登録意匠と相手意匠との類否判断における対比で、共通点である全体よりも、差異点とする部分の印象が勝るとしたのです。
判決は、両意匠の外観(基本的構成態様)が共通し、そこに登録意匠の創作の価値があることを認めながら、アクセントパネルの面からの印象をより大きなものとして、両意匠が類似しないとしました。

◆基本的構成態様が登録の価値のある部分として、要部(注目を集めるところ)である

◆両意匠の基本的構成態様が共通する
判決は、『本件意匠と被告意匠は、本体の基本形状を三角形4面で形成される略三角錐形状とし、本体の天頂に位置する頂点から底面を形成する点に至る3本の稜線のうちの1本の稜線に沿って、凹状の面(アクセントパネル)を頂点間の全長にわたり設けたという基本的構成態様において共通する。』としています。

◆アクセントパネルの全体の態様が共通する
①判決は、『また、アクセントパネルの上下中央部分は、最もへこんだ最大幅部を形成し、天頂部及び底面を形成する上下頂点へ向けて、徐々に先すぼまりとなっている点において共通する。』としています。
②アクセントパネルが、略三角錐形状のどのような位置に形成されているかも共通するとしています。

◆アクセントパネルの形状自体を要部とし、大きな差異点としたことの疑問
判決は、アクセントパネルの面形状を目立たせる条件が基本的構成態様に依存していることを、次のように認定しながらも、そこから、面形状自体を独立して評価しています。
『略三角錐形状を基本とし、頂点と底面の点を結ぶ1稜線上に設けられたアクセントパネル面が、需要者の注意を最も惹きつけるものであり、アクセントパネルが稜線上の全長にわたり設けられ、多面体の1つの面としての機能を果たしているがゆえにその形状は最も目につきやすいものである』

したがって、アクセントパネルの形状自体は、基本的構成態様の前提の基に、もう一つの要部と認定されたことになりますが、判決では、アクセントパネルの面形状自体を、この前提となった全体との関わりの中で捉えることをしていません。そして、基本的構成態様に依存しているアクセントパネルの全体の態様から、この面形状自体を独立させて取り出しています。

◆判決が示す、アクセントパネルの面自体の具体的形状の違いが意匠全体からの印象を凌駕する理由
判決は、『この点、原告は、アクセントパネル部の具体的形状は、上下両端を尖らせ中央部を幅広とした全体の形状としては共通するものであり、差異は、左右両辺が直線であるか曲線であるかにすぎないので、アクセントパネル全体としては、むしろ共通のシャープな印象が強いものであると主張する。
そこで、検討するに、確かに、アクセントパネルの側辺が円弧状であるとしても、その曲率が小さい場合には、側辺は限りなく直線的に見え、また、その幅が狭い場合には、本件意匠と同様にシャープな印象を与え、類似する可能性が高いものと解される。
しかし、被告意匠は、前記のとおり、長さと幅を約4:1とし、ある程度大きな曲率でカーブする円弧状の側辺であることから、紡錘状の葉様のふくよかでずんぐりとした印象を与え、上下両端を尖らせ中央部を幅広とした本件意匠と共通する形状の印象を凌駕するものと認められる。
したがって、両者のアクセントパネルが、上下両端を尖らせ中央部を幅広とした全体形状である点で共通するとしても、全体から受ける美観が異なるから、原告の上記主張は採用できない。』 としています。

◆アクセントパネルの面自体の形状が要部として最も大きな価値があるといえるでしょうか
上記のように、判決は、アクセントパネルの全体の態様において共通するとしながら、アクセントパネルの具体的態様(その縦横比や囲む線の種類)の違いからの印象の方を大きいとしました。
しかし、その面形状自体に、新規な創作性が認められるのでしょうか。これらの具体的態様は公然知られた形状として登録の要件を満たさないものであり、特徴ある形状ではないため、要部としての力は大きくはないはずです。

本件登録意匠のデザイン構成として、アクセントパネルの具体的態様は創作的な形態を含まない限りにおいて、バリエーションとして想定する範囲です。
だからこそ、判決もアクセントパネルの面形状を要部とするために、本件登録意匠がアクセントパネルだけを権利範囲としていないものであり、アクセントパネルが略三角錐状の一つの稜線の天頂部及び底面を形成する上下頂点へ向けて配置されていることに創作性を認め、その配置の条件を前提としたのです。

判決は、アクセントパネルの全体の態様を共通するとしながら、面形状だけを見れば何ら創作の価値のない部分の細部を美感として評価して差異点とし、更に、この部分からの印象は、登録の価値のあると認定された創作性を持つ意匠全体の印象を凌駕するとした判断には、根拠の正当性を認められません。この経緯の中で、要部として単なる面形状だけをクローズアップしたことには唐突感と違和感を覚えます。

◆基本的構成態様に対する要部の重み付けが評価されていない
判決は、アクセントパネルの全体形状を共通すると認めながらも、類否判断の評価に加えていません。そして、アクセントパネルの全体形状が創作の価値があると認定した基本的構成態様の部分であることが類否判断に反映されていないことも不思議です。
面形状自体の具体的な態様を高く評価すべきとする理由は示されていますが(もっとも、この理由は不可解なため、次でこの理由について考察します。)、基本的構成態様に登録の価値を認めたことの意味、および、侵害における類否判断の中で、この要部の持つ真の価値の重みと正当な評価については触れられていません。

◆アクセントパネルの面形状自体を要部とした理由が不可解です
判決は、『しかし、そうだからといって、具体的構成態様がすべて要部とならないわけではない。本件意匠は、本件公報の【図面】の実線で示された部分を権利範囲とするものであり、その権利範囲をアクセントパネル部分に限定するものではないところ、略三角錐形状を基本とし、頂点と底面の点を結ぶ1稜線上に設けられたアクセントパネル面が、需要者の注意を最も惹きつけるものであり、アクセントパネルが稜線上の全長にわたり設けられ、多面体の1つの面としての機能を果たしているがゆえにその形状は最も目につきやすいものであることからすれば、全体の美観(※注)において、アクセントパネル自体の形状から受ける美観の印象は強く、その幅や凹凸、形状等の具体的構成態様が異なれば、同一の基本的構成態様を前提としても全く異なる印象の美観を生じさせ得るものである。』※注:筆者(判決は「美感」とすべきを「美観」としています。)

ここで、判決は観察のプロセスにおいて、『全体の美観』として、全体を見ています。本件登録意匠の権利範囲がアクセントパネル部分を限定したものでないこと、アクセントパネルの配置方法が意匠全体に係り、その中で多面体の1つの面としての機能を果たすがゆえにアクセントパネルが目につきやすいことを、明確に認定しています。
そして、『であることからすれば』として、『全体の美観において、アクセントパネル自体の形状から受ける美観の印象は強く』と判示するのであれば、全体の美感は、アクセントパネル自体の形状から受ける美感の印象を遥かに凌駕すると続くはずです。
しかし、アクセントパネル自体から受ける美感の方が大きいとしたのです。この結論に導く判決の論理は理解できません。

◆判決で、アクセントパネルの面自体の形状にこだわった理由

続けて判決は、『原告の主張によれば、基本的構成態様を同じくする限り、アクセントパネルなどの具体的構成態様がどのような形状であっても、意匠としての要部をすべて共通することとなり、相当とはいえない。』としていますが、『相当とはいえない』とする理由・根拠が示されていないため不明です。

類似となるかどうかは、対比する意匠の価値がどのようなものであるのかが観察され、その価値の重み付けが、それぞれのケースにおいて認定され判断されるもので、本件登録意匠は、登録の価値を骨格的態様である基本的構成態様そのものが持ち、そこに創作性が認められたのであり、アクセントパネルもこの多面体の一部分を構成するもので、基本的構成態様を形成するものです。
このことは判決も認定するところであり、全体の美感の中に、アクセントパネルも組み込まれた意匠なのです。
したがって上記の判示は、このような登録意匠の態様に対して的を外れているとしか思えないのです。
そして、『そうすると、具体的構成態様であるアクセントパネルの形状についても、全体の美観を左右するものとして、本件意匠の要部に当たるというべきである。』とするところも、余りにも唐突で論理としての正当性が認められません。

ここで、もし、部分としてのアクセントパネルの面形状に創作性があれば、全体からの印象を凌駕する可能性も考えられますし、その要部としての価値の比重も変わってくることになるでしょう。しかし、本件の両意匠のアクセントパネルの面自体の形状は、誰でもが知っているありふれたものに過ぎません。
なぜなら、判決自身がアクセントパネルの具体的態様から、創作性のある配置の条件を外してしまい、単なる面形状として「略菱形状」と「略紡錘形状」を評価の対象としたのですから。

そして、配置の条件は基本的構成態様に含まれるため、面形状自体を要部とするには、この条件を外さざるを得なかったと思われます。結局、本件登録意匠の登録の内容の理解と解釈を誤ったことから矛盾が生まれたのです。

◆原則的な意匠の類否判断
侵害における意匠の類否判断では、原則として、まず基本的構成態様が共通すること、そして、登録要件である創作の価値がそこにあれば、対比する両意匠が類似とされ、本件の場合はこの条件に該当します。
この条件でも、類似しないとなるのは具体的態様(本件の場合は、判決は、アクセントパネルの面自体の形状としています。)に、基本的構成態様を凌駕するだけのポテンシャルがある場合です。しかし、本件の場合は先に述べたとおりに、ありふれたものであり類似しないとする力はありません。

◆侵害における通常の類否判断(特許庁 意匠の審査基準及び審査の運用参照)

◆もう一つの差異点とした開口機能の有無について
判決は、両意匠の具体的構成態様であるアクセントパネルの形状からの印象に差異があるとし、アクセントパネルの面の印象を生む要素として、「形状の違い」に加え「開口機能の有無」をあげました。

しかし、類似しないとするもう一つの根拠の開口機能は、本件登録意匠では権利範囲とするものではなく、相手意匠では意匠としての意味のある形状に現れていないことは前号(Vol.87)でも述べたとおりであり、本号でも後述しています。
そして、この点は判決も認めています。

◆本件登録意匠のアクセントパネルに開口機能がないことを認定できるのか
判決は、登録の範囲ではない破線部を根拠に、本件登録意匠のアクセントパネルに開口機能がないことを認定しました。しかし、本来、部分意匠では登録を受ける部分以外の部分(権利を主張していない部分)を、侵害における類否の判断に加えることは、部分意匠制度の制定の目的に外れるものであり、本来は、してはならない行為です。

部分意匠の破線部(登録を受けようとしない部分)に対しての参酌は、登録を受ける部分の正しい理解という目的のために正当な理由がある場合は許されることが、判例「プーリー事件」(知財高裁平成18年(行ケ)第10317号 平成19年1月31日判決)で示されています。

しかし、本件登録意匠の場合は装飾的な印象が与える美感をシンプルに出願し、登録となったものです。装飾性に特化した包装用箱のため、細部の仕組み等の保護を求めたものではありません。したがって、そもそも、登録意匠の技術的機能を例示する破線部を参酌する必要は無いのです。
ところが判決は、包装用箱には開口部が重要であるという、包装用箱及び包装用箱のデザインに対して普遍性のない根拠を基に、部分意匠である本件登録意匠の破線部を参酌し、アクセントパネルが開口部ではないことを認定しました。

◆本件登録意匠の開口部について
判決の、包装用箱は開口機能の存在が重要であるとの判示については既に述べましたが、登録意匠には技術的な機能が必ずしも重要なものばかりではありません。登録意匠の中には技術的機能を登録の範囲としないデザインがあること、その場合は、形としての見え方をシンプルに評価すべきであるといえます。
本件登録意匠は、その登録の目的において開口部・開口機能を登録の範囲に含めていません。その意味するところは、本件登録意匠の「開口部」は、本件登録意匠の利用により生まれるデザインにおいて、変更を予定される部分になるということです。
つまり、アクセントパネルに開口機能が無いことの認定は、本件の類否判断において何ら意味の無いことなのです。部分意匠である本件登録意匠の開口部の位置は、特定することはできません。

判決の示す判断は、包装用箱の意匠に関する無理解と、本件の登録の内容に託したデザインコンセプトに対する誤った解釈が、登録を受ける部分以外の部分である開口部の機能に注目する見方に繋がったのだと思わざるを得ません。

◆相手意匠の開口部について
相手意匠の開口部は、紡錘形の2枚のパネルを重ねて1枚のパネルに見えるように、透明なシールで目立たぬように封緘されています。したがって開口部としての機能は、目に見える意匠的形状(意匠として意味のある形状)として現れていません。

判決も『このような蓋は、斬新なものではなく、看者が、蓋としての機能を有するアクセントパネルに直ちに着目するとはいえないとしても、』と、ギフトパッケージである相手意匠のアクセントパネルに、開口部としての意匠的形状が視認できないことを認めています。
その上で、『それがどのような機能と結び付いているかによって、注意力の程度や、そこから受ける印象、感銘力が異なるのは当然のことである。』として、開口部という形状を示す表現を避けて、単に機能が有ることを認定しました。

その観察方法も、『他の面に開口部らしき部分を有さないところから、』として、『アクセントパネルが蓋であることは、外観からも容易に認識できるものである。』と、視認による観察結果ではなく、推測から開口部の存在することと、目に見える形状としてではなく、仕組みとしての機能を有する(らしい)ことを理由として、相手意匠のアクセントパネルに開口機能があることを断定しています。

しかし、意匠法に規定されているとおり、視覚を通じて美感を起こさせるものが保護の対象です。そして、意匠的形状として視認できないものを意匠の類否判断に取り入れるのは、意匠法24条2項に規定されているとおり、誤ったことです。
相手意匠の開口部について、形に現れていない機能を要部認定したことは意匠法の範囲外についての言及であり、この認定は受け入れることはできません。

意匠法242
【登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。】と規定されています。

◆相手意匠の開口部が視認できないことのデザイン的意味
開口部が目に見える形で存在を主張していないということは、開口機能がデザイン的に強調されていないことであり、物の出し入れが商品購入の決め手ではないことを示すものだといえます。

◆包装用箱は物の出し入れに興味を持たれるとする判決の前提には普遍性がない
判決のこのような見解は、この種のパッケージデザインに対する認識を欠いた、一方的な見方でしかなく、普遍性があるとは思えません。道具として物を入れる容器のなかには、物の出し入れを主目的とし「多数回の開閉を前提とする収納用箱」と、収納された物を「需要者に届けることを目的とした包装用箱」とは、その道具としての立場とデザインに対して注意を向ける場所が違います。

特に本件登録意匠と相手意匠のような、箱の造形的な装飾性を重視する包装用箱は、使用に対する技術的工夫よりも、全体の見え方にデザインとしての創意・工夫をしています。この種のパッケージ(包装用箱)には、全体形状の装飾的イメージを高めるために、開口部が目立つことをデザイン的に避けることも多々ありますし、その場合は敢えて開口部を意匠としての形状に現わさないデザイン手法を選択します。
相手意匠の開口部が、1枚の面として意匠全体の中に溶け込んでいるのもデザインの持つ効果です。

また医薬品・洋菓子などのパッケージに見られる例として、店頭での改ざん防止のため開口部の存在を主張しない、あるいは隠してしまう。また、生産性を高めるために、開口することへの配慮よりも、開口部の糊付け封緘をしてしまう場合も、これもまた普通に行われています。
したがって『物を出し入れする包装用箱の開口部の位置、形状がいかなるものかについては、一般消費者のみならず、取引業者も関心を持つのが通常である』と断定することはできません。

◆認定されなかった両意匠の共通点である、アクセントパネルの装飾的役割
判決は、『多面体の1面として注意を惹く部分であるアクセントパネルが、・・・中略・・・専ら装飾としてのシャープで洗練されたイメージのアクセントパネルを有する本件意匠』として、本件登録意匠のアクセントパネルに装飾的機能が有ることを認定しています。そして、基本的構成態様で共通する相手意匠にとっても、アクセントパネルには同じ役割の装飾的機能があるといえます。
しかし、判決はこの点に触れていません。本件登録意匠が装飾性に特化したものであることからすれば、両意匠のアクセントパネルが、意匠全体の装飾性を高める役割を共通して持つことは、類否判断にとっては重要なポイントです。

判決が、本件登録意匠の理解のために、「意匠の持つ機能」として物品としての構造的機能にこだわるのなら、形状が持つ装飾的機能に対しても同様に目を向けるべきであり、そこから、登録意匠の本質的な創作の価値が見えてきたと思うのです。

3. まとめとして

◆アクセントパネルを設けた外観全体を権利範囲とし、そこに創作性があり、登録の価値がある
本件登録意匠は、登録を受ける部分を外観全体である基本的構成態様「そのもの」として、アクセントパネルも含めた一体不可分な意匠を骨格的態様として、略三角錐形状を基本とし、頂点と底面の点を結ぶ1稜線上にアクセントパネルが設けられた外観に美感を与える創作の価値があり登録となりました。
そして、そのことを判決も認めています。しかし、裁判所の判断で、この登録の価値は意匠権の力に反映されませんでした。

◆アクセントパネルは、意匠全体の中で、配置されている条件の基に評価される
そして、判決も、『その権利範囲をアクセントパネル部分に限定するものではないところ、略三角錐形状を基本とし、頂点と底面の点を結ぶ1稜線上に設けられたアクセントパネル面が、需要者の注意を最も惹きつけるものであり、アクセントパネルが稜線上の全長にわたり設けられ、多面体の1つの面としての機能を果たしているがゆえにその形状は最も目につきやすいものであることからすれば、』と、アクセントパネルを全体の中において評価しています。したがって、判決は、創作の効果を登録の内容にある「ひとまとまりの多面体」としてアピールするものであると確かに捉えています。

このように、本件においてアクセントパネルは、両意匠の基本的構成態様の一部分として存在することで、その価値を発揮すると認定されたのであり、意匠全体を離れて面形状自体を単独で評価し、要部としての価値を与えることは理にかないません。

◆創作の意図を把握し、デザインコンセプトに即した態様の解釈がなされていたら
判決は、アクセントパネルの面形状自体を独立した部分と捉えていますが、その部分の意味を「全体の美観」として意匠全体の中で捉えなおしていたら、本件登録意匠のデザインコンセプトに見合った要部認定につながったはずです。

◆登録の価値と、その創作性
本件登録意匠の登録の価値とその創作性とが、登録の内容に即して認定され、部分意匠として登録を受ける部分である基本的態様の内容が正当に評価されていたら、違った結果になったと思うのです。
本件登録意匠の創作の目的は、その外観全体の形態(意匠的フォルム)で人目を引くことにあり、包装用箱の使い勝手という機能性は登録の範囲には含めていません。本件の場合、登録の意図であり、創作の目的である外観形状を表現する上で、「包装用箱の構造的機能」の要素は必要ないものです。

このデザインコンセプトの理解が得られていたら、アクセントパネルの具体的形態に、これほど重きを置いて注目されることもなく、また、包装用箱のデザインに対する造詣に対して、通り一遍なものではなく、ある程度専門的な知識が反映されていたら、「部分の構造的機能」に注目することもなかったのではないでしょうか。
ましてや、本件登録意匠はその機能を登録の範囲としていないのですから。そして、相手意匠の目に見えない機能までを類否判断の俎上にあげる必要もなかったと思うのです。

4. 上告申し立ては不受理

控訴審判決の判断に疑問が残るため、このままの状態で、この事件を終了させることはできないと考え、上告受理申立てをしました。ほどなく、「記録到達通知書」が届き、そこには、今後は最高裁判所が審理することになること、審理する上で書面の提出が必要な場合は連絡があることが記載されていました。もしかしたら上告審として受け入れられるかもしれないとの期待を持って待つこと約6ヶ月、届いた調書には「本件を上告審として受理しない。」という記載があり、残念ながら疑問は解明されないままに終わりました。

(以上)
原審:東京地方裁判所 平成27515日判決 (平成26年(ワ)第12985号)
知的財産高等裁判所第2部 平成28127日判決 (平成27年(ネ)第10077号)
最高裁判所第三小法廷 平成28913日上告審不受理決定 (平成28年(受)第793号)

 

 活動報告

D-8(日本デザイン団体協議会) 第6回デザイン保護研究会 参加報告

今期、第6回として29日(木)18:3020:00に、今期の幹事団体である(JID)公社日本インテリアデザイナー協会の事務局会議室:新宿パークタワー・リビングデザインセンターOZONE 8階に於いて開催された研究会に参加しました。

参加者:8
各協会担当委員: JID/3名、JIDA1名、JPDA1名、JJDA1名、JAGDA1名、SDA/1名、
欠席協会: JCDA DSA
オブザーバー: (一社)日本デザイン保護協会/1名

議長:JIDA

議事内容の概要(JID作成議事録より抜粋)
1.-8創作証の普及についてと創作証のマークデザインについて、次年度の検討課題とする。
2.デザイン保護に関する認識・啓蒙策を次年度の活動に取り入れ、広く意識の共有を図っていくために、セミナー等の知財の勉強会の実施を検討する。
権利マップの確認/8団体それぞれの業務事情をとおして、デザインと関連する諸権利の確認を行い、次回は各協会ごとのデザイン工程に関係する知財マニュアルを持ち寄ることとなった。
3.その他・報告事項
D-8 責任者会議報告:ウエブサイト「JAPAN DESIGNERS」利用承認(経産省)→引き続き登録促進の事。
② 平成28年度意匠制度の改正に関する説明会が行われる事(全国/東京2月23日):ハーグ協定に基づく国際登録制度と意匠審査基準の改訂→次回のデザイン保護研究会でJIDから報告予定。

※次回開催予定:2017413日(木) 18:30〜20:30 JID事務局 会議室

引き続きご意見、ご要望等は下記アドレスで受け付けています。
MAIL:info@jpda.or.jp

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