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Vol.89 「J-PlatPatを使いこなすための基礎知識・意匠検索のポイント」

昨年11月実施の特許庁公報検索演習セミナーでは、講師の説明の中の知財の用語に、まず、つまずいてしまう方が散見されました。このセミナーは、<J-PlatPatに出会ってみよう>というテーマで、検索ツールに親しむ第一歩を体験していただくことに目標を置いたものでしたが、やはり、ある程度の基礎知識の習得が必要なのではないかとの反省点が出ました。
そのために、本号では意匠検索のために、<意匠の類否の判断基準>についての解説をお届けします。
※商標検索のための基礎知識は号を改めます。
活動報告では、61日開催予定の、侵害事例から学ぶ知財セミナーの予告が掲載されています。

(2017年4月3日 編集・文責:デザイン保護委員会 委員長 丸山和子)

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 情報発信

事例にみる意匠の類否判断のポイント
永芳太郎 弁理士(みずの永芳特許事務所 所長)

意匠の類否判断は、11が常に2になるというような公式がなくて難しいといわれます。
共通点と差異点を総合的に判断する、といっても判断にグレーゾーンがある要素の積み重ねになるので、どうしても結論にブレがあるように感じられてしまいます。
そこで、意匠の類否判断について、確信ある結論を得るために重要な観点を事例をとおして探ってみます。

(1) 意匠の類否判断の具体的な手法
基本となる、類否判断を行う際の検討の流れについて端的にまとめられたものとして、産業構造審議会の意匠制度小委員会(平成161117日)で配布された資料を抜粋して紹介します。
この類否判断手法の中でも、意匠の要部の認定において、周知意匠や公知意匠を考慮する点が重要だと思いますので、あとで事例をとおして確認します。

(2) 物品の類否判断
意匠の類否判断は物品の類否と形態の類否との2つの観点から行いますが、まず、物品が同一または類似でなければ、類似する意匠になりません。
物品が非類似なので、意匠が類似しないと判断される例としては、「乗用自動車」と「ミニカー」等があります。
これらは、類似する意匠(権利が及ぶ範囲)とされなくても、市場で商品が競合することがないので、支障ないと思われます。物品の類否は、物品の用途及び機能に基づいて判断する、とされていますが、何を用途と認定して、何を機能と認定するかは、例えば以下の「コップ」と「花瓶」のように微妙なものも多いので、同じ使い方をする可能性がある物品同士は、形状が近づくと類似する意匠と判断される可能性があるものとして注意する必要があります。

(3) 形態(形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合)の類否判断
形態の類否判断について、原則とされているものがいくつかあります。

ア. 見えやすい部分、着目される部分の形態は、類否判断に与える影響が相対的に大きい
以下のテレビは正面性の高い物品なので、背面側に大きな違いがあっても、着目される正面の共通性によって類似する意匠と判断されています。

イ. 色彩、文字、材質のみの違いは、類否判断に与える影響が弱い
色彩については、次の「包装用箱」のように、色彩のみの変更は、創作というより色を選択するにすぎないので、印象の違いは大きいとしても類似する意匠と判断されます。

次の「食卓用皿」では、濃淡が反転してかなり印象が異なりますが、図形がほぼ共通なので類似する意匠と判断されています。

文字については、以下左側のように、文字が意匠の構成要素として評価されていると思われる事例もありますが、基本的に文字が意匠の類否判断に与える影響は弱く、以下右側のように、文字の有無、文字の態様にかかわらず、図柄の共通性によって類似する意匠と判断されています。

ウ. 部分意匠における破線部の形態は、対比の対象としない
意匠審査基準では、「71.4.2.2.1 公知の意匠と部分意匠との類否判断」の項で、
「(5)公知の意匠と部分意匠との類否判断
(①~⑤略)
⑥位置、大きさ、範囲は、当該意匠の属する分野においてありふれた範囲内のものであれば、ほとんど影響を与えない。
なお、「その他の部分」の形態のみについては対比の対象とはしない。」としています。

具体的な事例としては、以下のように破線部の形態に相違があっても、受けようとする部分の形態が共通すれば、類似する意匠と判断されています。

エ. デザインコンセプトの共通性のみでは類似する意匠にならない
以下、左側の「包装用缶」、右側の「包装用びん」は、デザインコンセプトは共通するものの、それぞれ類似しない独立の意匠として登録されています。

意匠の類否判断は、具体的な形態による視覚的印象(美感)の異同が類否判断の重要な要素なので、次の「包装用びん」のように、デザインコンセプトが共通すると共に、全体の構成が共通する場合には、類似する意匠として登録されています。

(4) 先行意匠群との対比
2つの意匠を対比するだけでは、共通点、差異点をどの様に評価すべきか結論を得ることは困難です。
意匠審査基準に記載されている類否判断の手法の中でも、先行意匠群との対比の必要性が記載されています。

(4)-1. 先行意匠群を確認するには
J-PlatPat (特許情報プラットフォーム) を利用して、先行登録意匠を検索することができますが、抽出した先行意匠を類否判断の有効な資料とするために、工夫が必要です。

1つには、抽出した先行意匠について、類似する意匠と判断されている(関連意匠登録されている)ものと、類似しない意匠と判断されている(別登録されている)ものとを整理することで、その物品分野の類似する意匠の範囲をある程度確認することができます。

また、抽出した先行登録意匠の公報書誌事項に「参考文献」が掲載されている場合は、その参考文献(審査時に参考意匠とされながら類似しないと判断された意匠)を確認することによって、先行登録例に示されている意匠の類否判断の要素やその評価について、参考情報を得ることができます。
例えば、以下の「炊飯器」では、抽出した登録意匠Aについて、掲載されている参考文献B、C、更に参考文献B、Cに記載されている参考文献D以降を確認することによって、基本構成が共通するだけでは類似する意匠と判断されず、類似する意匠の範囲が比較的狭いこと、各部の具体的な構成態様の違いが類否判断の重要な要素となっていることを知ることができます。

(4)-2. 先行意匠群との対比【事例1
意匠の類否判断において、先行意匠群を確認し、検討結果が斟酌されている事例を見てみます。

○平成24年(行ケ) 第10042号 審決取消請求事件「自動二輪車用タイヤ」
審決が「長傾斜溝、中傾斜溝及び短溝の三つの溝が、全体として、横に伸びた略「さんずい」偏様を呈する態様で、これらが、赤道を中心として千鳥配置状に配設されている点」が、「両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼし」両意匠は類似する、とした判断を不服とした原告(出願人)が、裁判所に審決の取消を求めて訴えた事例です。

両意匠は、基本構成に共通する点が認められますが、原告は、この共通性が類否判断を決定付ける要素にはならないと主張して、それぞれ類似しない意匠と判断されて別登録されている、以下を始めとする多くの先行登録意匠を証拠として提出しています。

裁判所は、これらの証拠に示された先行意匠の類否判断例があることから「長、中、短の三つの溝を1単位とし、これを、赤道を中心として、左右の斜めに向けて,千鳥配置状に配設した点については、本願意匠の出願前に日米において複数登録されていることを斟酌すると、それだけでは取引者・需要者の注意を引きやすい特徴的な形態であるとはいえない」として、三つの溝の具体的な形状、配置、位置関係等の相違を評価して、両意匠は類似しないとの判断を示しました。

(4)-3. 先行意匠群との対比【事例2
○平成26年(ワ) 第12985号 意匠権侵害差止等請求事件「包装用箱」
本レポートページ「デザインの権利と保護」Vol.87Vol.88に経緯も含めて紹介されている、「アクセントパネル」を設けた三角錐形パッケージの事例です。

裁判所は、(ア) アクセントパネルの具体的形状の差異、と (イ) アクセントパネルを開口部としているか否か、の差異によって、本件意匠と被告意匠とは「美観を共通するものとはいえない。」とし、「共通点は、差異点が看者に与える美観の差異を凌駕するものとは認められない。したがって、被告意匠が本件意匠に類似するとはいえない。」と判決しています。

上記差異のうち、(ア) アクセントパネルの具体的形状の差異、について原告は、本件意匠と被告意匠との違いと同様の差異を有していながら、類似すると判断されている先行登録意匠(甲8~10)を証拠として提出しています。

この他にも、この種容器の意匠には、以下のように、稜線の凹部形状に差異があっても、類似する意匠として登録されている先行登録意匠があることから、(ア) アクセントパネルの具体的形状については、差異があっても意匠全体として類似すると判断される可能性はある、と思われます。

しかし、もう一つの類否判断に影響を与える要素とされた、(イ) アクセントパネルを開口部としているか否か、について裁判所は、「箱を開口してもアクセントパネルとしての美観に全く影響がないか、箱の開口によりアクセントパネルとしての美観が消失してしまうかは大きな差異であるというべきで、本件意匠と被告意匠とは、この点においても美観を共通にするものとはいえない。」として、「外観としての美感に影響を与えるもの」と評価し、以上の (ア) 、(イ) の差異によって両意匠は類似しないと判決しています。

(5) 意匠の類否判断のポイント
前記 (4)-3.の事例では、稜線における凹部形状の評価だけではなく、別の観点から判断する要素が加わった難しさがありますが、複数の判断要素について意匠全体として総合的に判断する、意匠の類否判断の基本は変わりません。そして、その複数の判断要素について、それぞれが類否判断に与える影響の重み付けが的確になされることが、とても大切です。

以上見てきたように、意匠の類否判断について確信が持てる結論を得るためには、同種の物品分野における従来意匠の状況を確認して、それと対比することによって各判断要素の評価を的確に行うことが重要だと思われます。

以上

 

 活動報告

2017年度 第1回の知財セミナーを、61日(木)に開催することが決まりました
(主催:デザイン保護委員会)

3月9日の今年度最後のデザイン保護委員会で、2017年度の年間活動について話し合われ、セミナーの企画に関しては、以下の二つの開催が決まりました。

<1回目のセミナー>
「侵害事例から学ぶ、具体的な知財とその保護の方法」
知らないうちに巻き込まれる恐れがある知財トラブルについて、デザインの侵害事例の紹介と解説をとおして、関係する法律についてを具体的に学びます。デザイン制作現場で起こり得る身近な問題を、「JPDAデザイン保護ハンドブック」も参照しながら学び、初心者からベテランまで、それぞれの立場で興味を持って受け止めていただけるような内容で、気軽に参加していただけるセミナーの企画を進めています。
※セミナー詳細と参加のご案内は、5月上旬に協会メルマガと本レポートページVol.90(5月公開号)でお知らせします。

以下は、現在決定した範囲での、テーマと日程等になります。
◆日程
61日(木)、講義時間は18:3020:30の予定とします。
◆会場
DIC株式会社 本社2F 大会議室 (東京都中央区日本橋 3-7-20)  
◆講師
・松井宏記弁理士 レクシア特許法律事務所 代表パートナー

<2回目のセミナーについて>
「公報検索体験セミナーの第2弾」
2016年1114日に実施しました<J-PlatPatに出会ってみよう>をテーマとした初歩編の公報検索体験セミナーの続編となります。
◆日程
2月開催を目指して、実施に向けて検討を始めました。
◆内容
・初心者対応の実施済みセミナーの続編として位置づけ、初歩的なレベルをマスターした人を対象とします。
※公報検索体験セミナーのお知らせは、本レポートページ12月号に掲載の予定です。

自習用テキストの準備
・初歩的なレベルは、専門用語の理解も含めて画面の基本操作ができるとし、セミナー開催までにこの段階がマスターできる「公報検索の手引きとなるような自習用テキスト」の作成を目指します。

引き続きご意見、ご要望等は下記アドレスで受け付けています。
MAIL:info@jpda.or.jp

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