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Vol.91 「判例を参照し<意匠図面の効果的な書き方>を解説する」

本レポートページVol.87Vol.88で提示された意匠権侵害訴訟事件では、「包装用箱」の登録意匠は相手商品の意匠に類似しないため侵害しないと判示されました。

原告側にしてみれば、「創作の意図、出願の意図」が正確には汲み取られなかった残念な結果で終わったことになりますが、ここに改めて、「望む権利」を保護するための創作者側・出願者側の対策として、どのような意匠出願をしていくべきかを学ぶ必要性を感じました。

そのために、本稿では、包装用箱の登録図面に対して、判決が示した類否判断の経緯と結果を踏まえて、意匠登録出願する際の<意匠図面の効果的な書き方>を、解説していただきました。この知識を、出願のために役立てていただければとの思いでお届けします。

(2017年5月19日 編集・文責:デザイン保護委員会 委員長 丸山和子)

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 情報発信

意匠図面の書き方
特許業務法人レガート知財事務所 弁理士 峯 唯夫

今回は、丸山和子さんが提起された訴訟「包装用箱事件」の判決及び意匠図面を参照しつつ、図面を中心として、意匠登録出願の出願書面の書き方について解説いたします

1. 意匠図面の基本
意匠登録を受けようとする意匠は、「図面」で形態が特定されなければなりません。

形態を特定するための図面を「必要図」といいます。まず、六面図が基本になります。六面図だけで形態が特定されない場合は、断面図や斜視図を追加します。
特許庁の「意匠登録出願の願書及び図面等の記載の手引き」(以下「手引き」と言います。)では断面図や斜視図が必要なものとして以下の例が示されています(以下のURLの19頁)。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/h23_zumen_guideline/01_02.pdf形態を特定するためではなく、その意匠の使い方を説明したり、部位の機能を説明するための図を「参考図」といいます。上記URLの36、37頁には以下の例が示されています。必要図」は権利の範囲を解釈する際の基礎資料になりますが、「参考図」は権利解釈の基礎資料にはなりません。ここが重要です。後で説明します。

2.「形態を特定する」とはどういうことか
意匠図面は「設計図」ではありません。意匠の創作者が作り出した造形が特定できればよいのです。
例えば、製造する際には複数のパーツに分けるけれど、1パーツでも製造できる、というような場合は、パーツの分かれ目を線で表す必要はありません
表された「線」が「パーツの分かれ目」なのか「模様としての線」なのか。権利解釈でもめる場面もあります。

3. 部分意匠の図面
特許庁の「手引き」では次のように記載されています。
部分意匠の図面において、「その他の部分」は、意匠に係る物品を表す程度の形態を「意匠登録を受けようとする部分」とともに表す必要があり、また「意匠登録を受けようとする部分」の物品全体における位置、大きさ、範囲が特定されるように表すことが必要です。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/h23_zumen_guideline/02.pdfの62頁

そして、以下の例が示されています。
[図1]この図では、「携帯電話機」であることが理解できる程度の形態が表されていない、ということです。
携帯電話機であるためには「モニター」「操作ボタン」が必要だ、ということになります。
そして、「モニター」や「操作ボタン」との関係で、意匠登録を受けようとする部分(楕円部分)の位置を特定せよということです。

以下の例が示されています。二つは異なる意匠という考えなのです。
[図2]

「位置・大きさ・範囲」を特定せよ、ということは、「登録を受けようとする部分の周辺は、どんな形態(機能)を持つのかも示せ」という命題が含まれているということです。

4. 部分意匠で「その他の部分」をどこまで特定すべきか
「手引き」では、以下の2点を要求しています(上掲URL47頁)。
①「意匠登録を受けようとする部分」については具体的形態を明確に理解できるように記載すること、
②「その他の部分」については、少なくとも(a)当該物品がどのようなものであるか、(b)「意匠登録を受けようとする部分」の物品全体における位置、大きさ、範囲が特定される程度に表すこと

上掲図2のように、モニターや操作ボタンのような「その他の部分」は、あることがわかればよいのであり、概括的に示せばよい、ということになります。
登録例を見ると、「その他の部分」をかなり細かく書いている図面もありますが、それは「余計なこと」なのです。ばっさりと省略することが望まれます。

5. 裁判所の判断と図面
「包装用箱事件」の判決では、「アクセントパネル」部分の評価に当たり、開口部として機能するのかどうかが検討されています。
図面では、開口部がパネル以外にあることが「破線」で示されています。
これを根拠に、原告意匠のアクセントパネル部分には開口部としての機能がなく、パネル部分に開口機能がある被告の意匠とは機能が異なると判断しています。

機能の有無を類否判断の要素とすることの是非は置きますが、
以下の図において、A、B、Cは「その他の部分」については、少なくとも(a)当該物品がどのようなものであるか、(b)「意匠登録を受けようとする部分」の物品全体における位置、大きさ、範囲が特定される程度に表すこと」という要求を満たすために必要だったのでしょうか。

「当該物品がどのようなものであるか」を示すためには、容器の輪郭Aを「実線」にする必要はなく、破線Bによって開口部を示す必要もないと思います。どこかを破れば中身を取り出せるのですから。
また、破線のCも不要です。場合によっては、別の稜部にも「アクセントパネルがある」と認定されかねません。上に示した「図2」では、破線で示した部分を「モニター」「ボタン」とそれぞれ認定しているのです。

創作したのは、四面体状の容器の稜部に「パネルを形成する」ということです。そのことを端的に示す図面を用意することが必要です。

B、Cのように、審査基準が要求していない部分の状態を破線で表してしまうことは、しばしば見受けられます。その原因は、創作のポイントを「位置、大きさ、範囲」を含めて特定するために、「その他の部分」をどの程度表せばよいのかについての検討が不足しているためだと思います。

現象面からいえば、「全体としての創作物」の図面があり、その図面から、「その他の部分」となる部分を破線に変更することによって、「部分意匠出願」の図面を作成することが多いためだと思います。

―本件意匠の出願図面はこんな感じでしょうか―
「アクセントパネル」以外は、すべて破線でよいでしょう。権利を求めていないのですから。
説明の便宜上「平面図」で示します。

6. 形態が特定されること
本稿の冒頭で、「六面図だけで形態が特定されない場合は、断面図や斜視図を追加します。」と書きました。
この意匠、六面図だけで形態が特定できるでしょうか。アクセントパネル部分の傾斜の度合いが今ひとつ明瞭でないように思えます。また、物品が「包装用箱」ですから、「中にものが入ること(中が空洞であること)がわかる図面」を要求される場合もあります。

これらへの対応として、上の図面に付記した「A-A」部分の断面図を追加することをおすすめします。
その図面によって、アクセントパネル部分が「く」字状に屈曲していることも、中が空洞であることも明確になります。
この断面図は「意匠を特定するための図」ですから「必要図」です。

7. 参考図
参考図は、形態を特定するためではなく、その意匠の使い方を説明したり、部位の機能を説明するための図です。「包装用容器」という物品であれば、通常は使い方は自明であり、参考図が必要な場合は少ないと思います。

意匠の創作が物品の使い方の提案と合わさっている場合は、創作内容を明確にするために参考図が必要な場合があります。
下の例では、物品「ティッシュペーパー容器カバー」であって、底面が大きく開口している態様が部分意匠としての登録の対象となっています。そこで、使用方法を示す「参考図」が追加されています。

意匠登録第1107730号

本件意匠図面では、参考図が3つ記載されています。「参考開口図」「参考折りたたみ図」「折りたたみ線を示す参考図」。
これらの図面は「意匠を理解するため」に必要でしょうか。
登録を受けようとする部分は「アクセントパネル」の部分です。開口部ではありません。ましてや「折りたためるようにした造形」について権利を請求しているのでもありません。

3つの参考図は「意匠を理解する」ことには全く役に立っていないことになります。
むしろ、裁判ではいらぬ争点を作り出すモトになっています。また、あまり現実的ではないかもしれませんが、もし同じ形状の箱を、第三者がプラスチック成形品で作ったらどうでしょうか。プラスチック成形品は折りたためません。

8. 権利解釈と参考図
参考図は、権利解釈の基礎資料にはなりません。とはいうものの、意匠を理解するために参照されるものであり、造形の持つ意味を理解するために参照されることもあります。

本件訴訟では、被告は参考図の記載を根拠に、「本件意匠は動的意匠である」と主張しました。
動的意匠というのは形状が変化する意匠のことです。
本件意匠は静的な三角錐状態だけでなく、開口し、折りたたんだ状態までを含めて把握するべきだ、というのです。幸い、この主張は裁判所で退けられていますが、参考図の記載がなければ、このような主張はされなかったところです。

しかしながら、参考図によって、裁判所が「開口部」に注目する契機となった可能性は否定できません。
わざわざ「参考図」に記載しているということは、出願人・意匠権者として「開口部」を重視していると理解されても仕方のない面はあります。

9. 権利解釈と願書の「説明」
願書には「意匠に係る物品の説明」と「意匠の説明」という二つの説明記載欄があります。どちらも、権利解釈の基礎資料になります。
「意匠に係る物品の説明」を記載すべき場合については、「手引き」に以下の記載があります。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/h23_zumen_guideline/01_01.pdf6

(1)「別表一」の「物品の区分」のいずれにも属さない物品の場合
【意匠に係る物品の説明】の欄に、その物品の使用の目的、使用の状態等物品の理解を助けることのできるような説明を記載する必要があります。新規な物品や多機能物品がこれに該当します。
(2)「別表一」の「物品の区分」に属す物品の場合
「別表一」の「物品の区分」に属す物品であっても、形態が極めて新規である等により、どのように使用するか等を理解することができない場合は、その物品の使用方法等の説明を【意匠に係る物品の説明】の欄に記載することが必要です。

「別表一」とは、政令で定められた「物品」のリストです。
「意匠の説明」は主に図面についての注釈を記載する欄です。

権利解釈に大きく影響するのは「意匠に係る物品の説明」ですので、以下これに絞って説明します。

本件意匠の「意匠に係る物品の説明」には以下の記載があります。便宜上項分けしました。
4面で形成される三角錐形状を基本形とした構造体の頂点と底面を形成する点とを2本の折れ曲がった線で結ぶことにより、新たにアクセントパネルとしての面が生まれ、多面体としての新しい見え方を可能にしている包装用箱である。
②意匠としてではなく、構造的機能の役割を持つ、折りたたみ線は赤い線で表している。

いずれも、上記「手引き」で要求されている事項ではありません。説明がなくとも独特の形状をしたパネルであることは図面から理解できます。また、どのように折りたためるかは「アクセントパネル」の造形とは無縁です。
むしろ、権利範囲を限定する要素になるおそれがあります。「意匠に係る物品の説明」は意匠を解釈する基礎資料になるのです。

この観点から、本件意匠の「説明」には危惧すべき点が二つあると思います。

一つは、①における「2本の折れ曲がった線で結ぶことにより」です。この「説明」によって、アクセントパネルの輪郭が「直線」であることが強調されている、ともいえます。裁判ではこの「説明」が直接の論点になることはなかったようですが、避けるべき記載です。
もう一つは、②における「構造的機能の役割を持つ、折りたたみ線」です。この「説明」によって、意匠登録を受けようとする部分と無関係でありながら、「折りたたみ線」の存在が強調されており、意匠の解釈を誤らせるおそれがあります。

筆者は「説明は最小限度にとどめる」という考えで書面を作成しています。
最小限度というのは、「物品自体の用途・機能があまり知られていない場合と、(意匠登録を受けようとする部分の)形態が持つ意味合いをしっかりと伝えたい場合だけ」という意味です。
なお、「説明」にどの程度記載するかについては、弁理士により対応がだいぶ異なるようです。

10. むすび
以上述べたことをまとめると、以下のようになります。
(ア) 図面は、形態が特定できる限り、適宜簡略化する。
(イ) 部分意匠においては、意匠登録を受けようとする部分以外の部分は、その部分の「位置・大きさ・範囲」が特定できる限り、可能な限り簡略化する。
(ウ) 「説明」は出願意匠を正しく理解するために必要な限度で記載する。

以上

 

 活動報告

D-8 (日本デザイン団体協議会) デザイン保護研究会 参加報告

今期、第7回として413日(木)18:3020:30に、今期の幹事団体である(JID)公社日本インテリアデザイナー協会の事務局会議室:新宿パークタワー・リビングデザインセンターOZONE 8階に於いて開催され、JPDAからはデザイン保護委員会から小川担当理事と丸山委員長の2名が参加しました。

出席協会 : 幹事協会JID3名、JIDA1名、JPDA2名、JJDA1名、JAGDA/1名、
欠席協会 : JCDA DSA SDA
オブザーバー : 参加なし

<議長>JIDA
<議事概要について>
毎回の参加協会が少ないことについて問題点を整理し、次年度は共有すべき検討議題の設定が重要な課題であることを確認し、以下のテーマについて活動を継続していくことが話し合われた。

1.)創作証
創作証は試験運用と本稼働への準備期間を経て、201341日から本稼働となったが、その後の使用実績が伸びないことについての対応がなされてこなかったことに対して、創作証制度の制定は研究会の実績であると同時に、運用の継続は研究会の責任であることが改めて確認され、普及活動の実施に取り組むこととなった。

2.)デザイン保護に関係する知識の習得に対して
研究会内部に留めず、セミナー等の開催により広く知識を共有していく。
デザインに関係の深い意匠法について、デザイン創作者側の立場から学んでいくことも課題として捉える。

3.)デザイン保護制度について
8団体それぞれの事情において、デザインプロセスと知財制度との関わり方を検証していくことで、デザインに関わる権利とデザイン実務との関係性を明確にしていく。

<次回開催未定>

引き続きご意見、ご要望等は下記アドレスで受け付けています。
MAIL:info@jpda.or.jp

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