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Vol.93「J-PlatPatを使いこなすための基礎知識・意匠の創作非容易性」

提案デザインの安全性を確かめるためには「調査」が必要です。その手段の一つとして、「特許庁公報検索〈J-PlatPat〉」が、確実で手軽なものである事をお伝えしてきました。先行意匠群を確認するために関係すると思われる公報を、できるだけ多くピックアップすることが、まず必要な作業です。その上で、調査対象の絞り込みのために、提案デザインと意匠公報にある意匠の類似点についての判断をすることになります。

本レポートのVol.89では、類似するか否かの判断ポイントについて、具体的な手法の解説が述べられていますが、先行意匠群との対比における、複数の判断要素について、それぞれが類否判断に与える影響の重み付けが的確になされることがとても大切です、と結ばれています。それは、意匠の全体を観察し、デザインの創作の価値を見極めることといえます。

本号では、デザインの知財としての価値である<創作非容易性>とはどのように定義されるのか、また、<創作容易性>との境目は何処にあるのかを、意匠法の基本からの視点で解説されています。
稿末尾には、調査対象の意匠分類に触れ、製品全体の意匠だけでなく、製品を構成する部品の意匠についての調査が必要であることが追記されています。

(2017年7月31日 編集・文責:デザイン保護委員会 委員長 丸山和子)

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 情報発信 J-PlatPatを使いこなすための基礎知識 —意匠の創作非容易性—
永芳太郎 弁理士 (みずの永芳特許事務所 所長)

本レポートVol.86で報告された「特許庁公報検索〈J-PlatPat〉を基本の手順から習得する」セミナー・アンケートでの、「そもそも意匠について学びたい。」という意見などを受けて、Vol.89の「意匠の類否判断のポイント」に続いて「意匠の創作非容易性」について説明します。

1.意匠の登録要件「創作非容易性」
意匠権は、同一又は類似の意匠を他人が実施すること(製造、販売、展示など)を止めさせられる、強力な権利(排他独占権)なので、誰でも思いつく程度の形態に独占権を認めず、登録要件として一定以上の創作性があることを求めています。

2.創作非容易性の判断基準の引き上げ
創作非容易性の判断基準は、平成10年の意匠法改正で、「世界市場において製品競争力の優位性を保つために、より高いレベルの意匠の創作に能力を振り向ける」環境を求めて、大きく引き上げられました。

改正では、判断の基礎資料について地域と内容が拡大され、それまで登録を受けられない意匠を、
日本国内で広く知られた形状や模様(=日本でその名称を言えば誰でも思い起こせる「周知意匠」 ) に基づいて容易に創作できたもの、としていたのが、
日本又は外国において公然知られた形状や模様(=世界のどこかで誰かに知られた「公知意匠」 )に基づいて容易に創作できたもの、とされて登録のハードルが引き上げられています。

3.「周知意匠」に基づいて創作が容易な意匠
周知意匠(名称を言えば誰でも思い起こすことができるありふれた形状や模様)を、「殆どそのまま物品に表したに過ぎないもの」は、創作非容易性の判断基準が引き上げられる前から現在も継続して、当業者が容易に創作することができる意匠として登録を受けられません。

具体的には、改正前の旧意匠審査基準で挙げられていた以下が該当します。

(1)ありふれた形状や模様に基づくもの(旧基準 整理番号3-5100)
ありふれた形状や模様(下記 4.周知意匠 参照)であって色々な物品に用いられているものを殆どそのまま物品に表した程度にすぎないもの

(2)自然物ならびに有名な著作物及び建造物などの模倣の場合(旧基準 整理番号3-5200)
自然物(動物、植物、若しくは鉱物)ならびに有名な著作物及び建造物などの全部又は部分の形状、模様などを殆どそのまま物品に表した程度にすぎないもの

<創作容易と認められる例> 


(3)商習慣上の転用の場合(旧基準 整理番号3-5300)
非類似の物品の間に転用の商慣行がある場合(下記 8.商慣行上の転用による意匠 参照)において、非類似の物品の形状、模様、もしくは色彩又はこれらの結合を物品に商慣行上通常なされる程度に変化させて表したにすぎないもの

4.周知意匠(広く知られた形状・模様)
商標は、J-PlatPatの「日本国周知・著名商標検索」という項目で、需要者の間に広く認識されている商標(登録されている防護標章)を検索することができますが、周知意匠について、同様の検索ツールがありません。

意匠審査基準では、「23.3 公然知られたについて」の項で、「公然知られたのうち、その名称をいえば、証拠を出すまでもなく思い浮かべることができる状態を特に、広く知られたという。」としていますが、具体的な事例は示されていません。

発明協会(現発明推進協会)発行の月刊誌「発明」(1966年7月号)に掲載された、特許庁意匠課による意匠審査基準の解説の中に、以下のような形状・模様が、ありふれた形状・模様(周知意匠)として例示されていますので、参考のため抜粋して掲載します。

(1)ありふれた形状

A 平面的形状 : 正三角形、正方形、・・

B 柱 体 : 三角柱、四角柱、円柱、・・

C 筒 体 : 三角柱筒体、・・

D 溝 体 : 三角形溝体、・・

E 錐 体 : 三角錐、四角錐、・・

F 錘 台 : 三角錐台、四角錐台、・・

G 錘台筒 :三角錐台筒、・・

H 正多角形 : 正四角体、正六角体、・・

I その他 : 球体、かまぼこ形、・・

(2)ありふれた模様

ア 著名模様

イ 周知の紋章・商標

ウ その他の単純模様
縞模様、ジグザグ模様、円形模様


5.「周知意匠」に基づく創作非容易性の判断
上記のような「周知意匠」に基づく意匠が、基本的に容易に創作することができた意匠と判断されますが、これらの形状、模様を使用したものが直ちに登録を受けられないわけではなく、例えば下記の「食卓用皿」は、広く知られている模様「青海波」を表していますが、「殆どそのまま物品に表した程度にすぎないもの」ではなく、表し方に創作が認められて登録を受けています。

意匠登録第1094000号「食卓用皿」

6.「公知意匠」に基づいて創作が容易な意匠
判断基準の引き上げによって、日本で誰でも知っている形状や模様(国内周知意匠)だけでなく、世界のどこかで誰かに知られた意匠(世界公知意匠)に基づいて、創作が容易であると認められる意匠も登録を受けることができません。 具体的には、意匠審査基準で以下のような意匠、すなわち、公知意匠の一部を単に他の公知意匠に置き換えたに過ぎない意匠、公知意匠を単に寄せ集めたに過ぎない意匠などが挙げられています。

意匠審査基準
23.5   容易に創作することができる意匠と認められるものの例
23.5.1  置換の意匠
23.5.2  寄せ集めの意匠
23.5.3  配置の変更による意匠
23.5.4  構成比率の変更又は連続する単位の数の増減による意匠
23.5.5  公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合をほとんどそのまま表したにすぎない意匠
23.5.6  商慣行上の転用による意匠

意匠審査基準では、創作非容易性の規定の適用に関して、項目毎に具体的な事例が挙げられているので、以下のアドレス、特許庁HPに掲載の意匠審査基準(第3章 創作非容易性)を参照してください。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/isyou-shinsa_kijun/7.pdf

7.「公知意匠」に基づく創作非容易性の判断
その分野で従来から行われているありふれた手法によって、公知の意匠(どこかで誰かに知られた意匠)を単に寄せ集めたり、一部を置き換えたに過ぎない意匠は、基本的に容易に創作することができた意匠と判断されます。

例えば、「審査基準23.5.2 寄せ集めの意匠」の項では、スピーカーを組み合わせて一体のスピーカーとすることはこの分野でありふれた手法なので、公知のスピーカーを単に寄せ集めたにすぎない下記の意匠「A」は、容易に創作することができた意匠に該当し登録を受けられない、と例示しています。


(この分野で、音域毎のスピーカーを組み合わせて一体のスピーカーボックスとすることは、ありふれている。)

【 上記の公知意匠を寄せ集めたものとは認められない事例 】

一方、公知意匠の寄せ集めとは形状が異なる意匠となっている意匠「B」は、公知の意匠を寄せ集めて容易に創作することができた意匠とはいえない、と解説されています。

創作が容易で登録を受けられない意匠は、似たような意匠があったとか、造形手法がありふれているというだけではなく、公知の意匠をそのまま寄せ集めたり、置き換えたりしただけで、ほとんど同じ意匠が造形されるものが該当し、 公知意匠を寄せ集めた形と相違する意匠「B」や、後記10.に挙げた「包装用容器」の事例などは、創作容易とはいえないと判断されます。

8.商慣行上の転用による意匠
創作非容易性の判断基準が引き上げられる前の事例で、下図の「チョコレート」の出願について、形状が共通する引用意匠「卓上電気計算機」の登録意匠公報が、出願前約4ヶ月間に全国100余箇所の公衆閲覧所で公開されていたとしても、チョコレート業界における業者に周知の形態(誰もが知っている形態)になったとは認められず、創作が容易な意匠とはいえないとされた判決があります。 (昭和62年(行ケ)第195号,東京高等裁判所昭和63年7月26日判決)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=13949

現行基準では、創作性の判断資料が周知の(誰でも知っている)資料である必要はなく、公知である(どこかで誰かに知られている)意匠に基づいて判断されるので、これと同様の事例があれば、容易に創作された意匠と判断されるものと思われます。

出願意匠「チョコレート」


引用意匠「卓上電気計算機」


9.創作非容易性と物品の類否
新規性の判断(新旧意匠の類否判断)では、形状の類否と共に、物品の類否が意匠の類否判断を左右する重要な要素なので、シビアな判断を求められます。

一方、創作非容易性の規定は、物品の類否に関わらず適用されます。 自動車とミニカーのように形状の転用がよく行われる物品間では、公表された自動車の意匠を模したミニカーは、保護に値する創作性が認められない「商慣行上の転用」意匠に過ぎないと判断され、意匠登録を受けることができません。

本レポートVol.89で紹介したように、下図のミニカーの意匠は、自動車とは物品が異なるので類似せず、自動車の公表前の出願であれば新規な意匠として意匠登録を受けられますが、自動車の意匠の公表後は、自動車に類似する意匠ではないものの、容易に創作することができる意匠として、同一人の出願であっても意匠登録を受けることができません。



10.創作非容易性と形状・模様の類否
創作が容易な意匠には、「公知の意匠を単に寄せ集めたり置き換えたりしただけで創作できる意匠」、が該当しますが、公知の意匠と出願の意匠との形状の対比判断について、次のような判例があります。
「本願意匠は、多様なデザイン面での選択肢から、創意工夫を施して創作したものであるから、意匠3を基礎として、意匠1及び意匠2(容器本体口部よりも塗布具部の径が大きな公知の包装用容器に係る意匠)を適用することによって、本願全体意匠を容易に創作することができたとはいえない。」
(平成19(行ケ)第10209号 審決請求取消し事件)

ここでは、引用意匠1、意匠2で、塗布具部キャップの径を大きくした公知例があることが示されていても、具体的な形状が出願意匠のキャップ形状とは異なるので、引用意匠3と組み合わせて本願意匠を容易に創作することができたとはいえない、と判断されています。

11.調査対象の意匠分類
前記のように容器「本体」と「ふた」との組み合わせによって判断される、包装用容器の創作非容易性に関する意匠調査は、全体意匠(意匠分類 F4-710:包装用容器)のほか、構成部品であるふたの意匠(F4-91200:包装用容器のふた)について調査する必要があります。

この点は、製品の製造、販売を行っても支障ないか確認をする調査も同様で、製品全体の意匠が他人の権利に抵触(権利を侵害)しないだけでなく、製品を構成する部品の権利について確認調査が必要です。

部品の意匠分類は通常、全体意匠の分類の下位に、分類末尾に9を付して展開されています。
例えば、「ふた付きのなべ」をみると、「C5-410:なべ等」 の下位に、「C5-4190:なべ等部品及び付属品」の分類があります。 なお、なべの部品は出願が多いので、代表的な部品がC5-4190の下位に「C5-4191:なべぶた」「C5-4192:なべ用柄」のように展開されています。

以上

 活動報告 平成29年度第2回JPDAデザイン保護委員会/7月18日 (火)

18:30~20:30 於:株式会社ニックインターナショナル 会議室 

以下、議事内容の概要です。
1. 6月1日実施セミナーに関して 
撮影ビデオ確認と、今後の用途について意見交換し方向を確認した。

2. 公報検索自習用テキストの作成について
公報検索の基礎知識をまとめた資料の作成を検討している中で、次回の公報検索実習セミナー(来年2月16日)にも、手元資料として利用できる基礎編のまとめを公開していくことが決定された。

第1回 <予備知識と「意匠分類・Dターム」の説明>
第2回 <一般的な手順>
第3回 <昨年11/14セミナーの検索問題で実際の検索作業をしてみる>

3. 11月委員会内部勉強会について
委員自身のための勉強会として、小規模ならではの内容の設定が可能になる機会とする。 委員会外からの参加呼びかけも検討する。

4. 教育委員会主催のデザインセミナーから派生した事案の契約書について
事案に関わる理事会での経過と、デザイン保護委員会からの助言を含めたその後の対応についての報告が小川理事からあった。

5. JPDAHPレポートのテーマについて
Vol.92 「6月セミナー実施報告」(6月30日公開済み)
Vol.93 「公報検索のポイント:意匠の創作非容易性」7/末に公開予定
併せて、検討を進めているテーマ2件の報告があった。

6. 確認事項:2月セミナーについて決定事項
日程:2018年2月16日(金)14:00~17:00
会場:DIC株式会社 本社2F大会議室
講師:(INPIT)独立行政法人 工業所有権情報・研修館知財情報部からの担当者

・次回第3回デザイン保護委員会は9月中に開催予定。

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MAIL:info@jpda.or.jp

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