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Vol.96「意匠の類否判断<形を言葉で表現してみよう>」

「似ているか・似ていないか」を意匠的に判断する、この「類否判断」無くして提案デザインの安全を論じることはできません。J-PlatPatを使用し、似ている範囲に入りそうな登録意匠を検索できたとして、対比する意匠から感じる印象は、どのように整理すれば良いのでしょう。

意匠は形の要素の集合体です。対比する二つの意匠の形態(態様)の要素を、それぞれ言葉で説明し、「共通点」と「差異点」とにジャンル分けをして、そこから生まれる印象を「意匠の美感」として言葉で表現されたものが、「似ているか・似ていないか」の判断基準になります。

本号では、特許庁審決の事例にあげられた「本願意匠」と「引用意匠」の対比を通して、その結論がなぜ<類似しないから登録となる>とされたのかを、順を追って解説していただきます。

(2017年10月25日 編集・文責:デザイン保護委員会 委員長 丸山和子)

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情報発信

特許庁公報検索/類否判断→対比する形を言葉にしてみる
青木覚史 弁理士 特許業務法人三枝国際特許事務所

実際の審決例【不服2014-25657「包装用容器」】を題材に、本稿では<意匠調査で検出された先行登録意匠との類否判断>について解説します。

<先行登録意匠との類否判断>

・類否判断のポイント
審決例の検討に入る前に、意匠の類否について、簡単に確認します。
まず、意匠が類似するとは、物品が同一または類似であって、形態が同一または類似であることをいいます。物品が非類似の場合は、たとえ形態が同一であっても非類似の意匠となります。 類否が問題となるケースは、そのほとんどが形態に関するものですので、本稿では、形態の類否を前提として話を進めます。 意匠の類否判断は、対比する二つの意匠の共通点差異点を特定するところから始まります。そして、各共通点・差異点にウェイトを付けて評価します。例えば、差異点が需要者の注意を惹く部分にあれば、その部分が類否に与える影響は大きく、逆に、差異点が公知意匠に見られるありふれた態様であれば、類否に与える影響は小さくなります。そして、最後に、意匠全体の共通点・差異点を総合的に観察し、物品の需要者を基準として、共通点による美感が大きい場合は「類似」、差異点による美感が大きい場合は「非類似」となります。

それでは、実際の審決例を題材として、二つの意匠の共通点・差異点を構成要素ごとに特定し、それぞれの共通点・差異点が両意匠全体の印象にどのように影響するかを見ていきます。

1. 共通点について
(1) 共通点の認定
意匠に係る物品は、ともに「包装用容器」で一致します。
形態について、共通点は以下の3つです。
(A)基本的構成態様について・・・口部突出型容器で、円筒状の口部と、傾斜状の肩部と、円筒状の胴部からなる点
(B)肩部の傾斜面に、複数の同大同形状の略等脚台形状凹部を周方向に等間隔で上下位置を揃えて表した点
(C)胴部に、4本の環状溝を水平方向に略等間隔に表した点

意匠の類否判断では、上記のように、対比する一つ一つの形状を言葉で表していきます。言葉で表すことによって、対比の対象がより明確になります。
例えば肩部にある複数の窓のような形状について、審決では「略等脚台形状凹部」と表されています。やや難しい表現ですが、一言で「台形状」といっても、以下のように、様々な形状があるため、形状をより細かく特定するために、上記表現が用いられています。

(2) 共通点の評価
・共通点(A)(基本的構成態様)
審決では「口部突出型容器の物品分野において一般的な態様であって、看者の注意を惹くものとは言えない」旨認定されています。

意匠に係る物品全体の形態(基本的構成態様)は、意匠の骨格ですので、通常、視覚を通じて起こさせる美感への影響が最も大きいです。しかしながら、共通点(A)のように、その物品分野においてありふれた一般的な態様は、需要者が関心を持って観察する部分とはいえないため、類否に与える影響が相対的に小さくなります。

・共通点(B)(肩部の傾斜面にある略等脚台形状凹部
審決では「目に触れやすい肩部に係るものであるから、相当の評価をすべき」と認定しつつ、以下の公知意匠等が存在することを理由に、肩部の傾斜面に「略等脚台形状凹部」を複数備える態様は「両意匠の出願前から珍しいものではない」として、両意匠の類否判断に及ぼす影響が大きくない旨認定されています。

本件のような包装用容器では、まずは斜め上から観察されるのが通常であり、肩部は特に注目されやすい部分ということができます。しかしながら、肩部に「略等脚台形状凹部」を複数備える包装用容器は、上記公知意匠に見られるように、出願前より存在するありふれたものであり、類否に与える影響力が小さいと判断されています。

ここで重要なのは、ありふれていると認定されたのは「略等脚台形状凹部」を複数備える態様であって、「略等脚台形状凹部」の肩部に占める割合や配置がありふれているとは認定されていません。この割合や位置の影響力については、後ほど差異点のところで確認します。

・共通点(C)(胴部4本の環状溝を水平方向に略等間隔に表した点)
審決では「物品全体に占める割合が大きい胴部の全域に係るものであるから、相当の評価をすべき」としつつ、「胴部の水平方向に4本の環状溝を略等間隔に表した態様は、口部突出型容器の物品分野においてありふれた態様である」として、両意匠の類否判断に及ぼす影響が大きくない旨認定されています。

胴部の態様について、物品に占める割合が大きいため、一見、需要者の注意を惹く部分となりそうですが、単に4本の環状溝を水平方向に略等間隔に表した点については、ありふれた態様であるとして、類否に与える影響は相対的に小さくなります。

共通点(C)についても、ありふれていると認定されたのは、あくまでも「胴部の水平方向に4本の環状溝を略等間隔に表した点」であって、胴部の具体的な態様の評価については、差異点のところでなされています。
以上、共通点(A)ないし(C)は、いずれも、目立つ部分ではあるものの、ありふれた形態にすぎないと認定され、両意匠の類否判断に及ぼす影響が小さいと判断されています。

2. 差異点について
(1)差異点の認定
本願意匠と引用意匠との差異点について、構成要素(口部、肩部、胴部、底面部)に分けて見ていきます。

(ア)口部について

(ア−1)口部の径の大きさ及び高さ
本願意匠:太く、短い
引用意匠:細く、長い

(ア−2)口部の外周
本願意匠:上端開口部に縁状凸部、その下方に鍔状部が1つ表れている
引用意匠:上方に螺旋状凸部、その下方に大小2つの鍔状部が表れている

(イ)肩部について

(イ−1)肩部(片側)の張り出しの大きさ
本願意匠:張り出しの幅が狭く、勾配が急で、直線状
引用意匠:張り出しの幅が広く、勾配が緩やかで、湾曲状

(イ−2)略等脚台形状凹部の大きさ、個数
当該凹部の一単位の大きさについて、
・肩部に占める割合につき、本願意匠は小さく、引用意匠は大きい
・個数について、本願意匠は10個、引用意匠は6個

(イ−3)略等脚台形状凹部の具体的な位置
本願意匠:略等脚台形状凹部の下辺が、肩部の上下方向中央揃えで表れている
引用意匠:略等脚台形状凹部の下辺が、肩部の上下方向下揃えで表れている

審決では肩部について、上記3つの差異点を比較しています。他に、例えば、以下の視点で対比することもできると考えます。「形を言葉にする」の一例として記載させていただきます。

(ウ)胴部について

(ウ−1)胴部の幅
本願意匠の胴部は細く、引用意匠の胴部は太く表れている

(ウ−2)4本の環状溝で区切られた3つの帯状凸部の上下幅
帯状凸部の上下幅が、本願意匠の方が引用意匠よりも長く表れている

(ウ−3)胴部最上部の上下幅
本願意匠:胴部最上部の上下幅と帯状凸部の上下幅の比率が3:10
→胴部最上部と帯状凸上部の上下幅の相違が目立つ
引用意匠: 胴部最上部の上下幅と帯状凸部の上下幅の比率が8:10
→胴部最上部と帯状凸上部の上下幅の相違が目立ちにくく、一続きの印象を与える

(ウ−4)4本の環状溝の太さ
本願意匠は、上下端部の2本が内側2本よりも太くなっている
引用意匠は、4本とも同じ太さとなっている

(エ)底面部について

本願意匠:凹部内に周方向5個の略楕円状凸部が表れている
引用意匠:凹部内に周方向8個の略矩形状凸部が表れている

(2)差異点の評価
次に、差異点の評価について見ていきます。
類否判断の強弱について、概ね4つのグループに分けることができます。 

①差異点(ア−1)口部の径、(イ−1)肩の張り出しの大きさ及び(ウ−1)胴部の幅
審決では容器全体の輪郭に関するものであるとし、「これらの相違点は、口部突出型容器としてありふれた態様の対比における相違」としつつ、「各相違は明確であり、これらの相違点を総合すると、本願意匠は肩部の段差が目立たない細長い容器、引用意匠は肩部の段差が目立ったずんぐりした容器という異なった印象」を与えるとして、これらの相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいと認定しています。

このように、各相違点が与える影響は小さくても、それらが組み合わさることで、一つのまとまった別異の印象を与える場合には、類否に与える影響が大きくなります。

審決でも、赤で囲んだ肩部のくびれの部分を「段差」と表現し、それぞれの意匠が与える印象をそれぞれ異なるかたちとして「段差が目立たない細長い容器」「段差が目立ったずんぐりした容器」と表現しています。
意匠の類否は、結局のところ、意匠を全体観察したときに、需要者に別異の印象を与えるか否かで決まるため、上記のような印象の相違は、類否に大きな影響を与えます。

②相違点(イ−2)略等脚台形状凹部の大きさ等及び(イ−3)略等脚台形状凹部の具体的な位置
審決では「肩部に表れる略等脚台形状凹部の具体的な態様に関するものであるが、当該凹部の単なる個数の相違とは言えない程に、略等脚台形状凹部の大きさや位置の相違を目立たせている」として、これらの相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいと認定しています。

共通点のところで少し述べましたが、肩部は目に付くところであり、略等脚台形状凹部の有無は大きな特徴ではないものの、肩部に占める台形状凹部の「大きさ」や「配置」に着目すると、両意匠の印象を異ならせるには十分な差異ということができます。

③-1相違点(ウ−2)4本の環状溝で区切られた3つの帯状凸部の上下方向の長さ
審決では「具体的態様に関するものであるが、その相違は明確であり、両意匠の類否判断に及ぼす影響を軽視することはできない」として、一定の影響を及ぼすと認定されています。

細かな差異ではあるものの、意匠に占める割合の大きい部分である点も考慮され、このように認定されているものと考えられます。

②-2相違点(ウ−3)胴部最上部の垂直面の長さ

審決では「胴部上端付近に関するものであり、一見細部に係る相違のようにも見えるが、当該部と下方の帯状凸部とが同様の態様として連続して表れる印象を看者に与えるか否かという相違」を与えるとして、一定の影響を及ぼすと認定されています。

④ その他の相違点
以下の相違点は、いずれも、両意匠の類否に及ぼす影響が小さいと認定されています。

・相違点(ア−2)口部の形状
「極めて部分的であり、主に、打栓式キャップ用かスクリュー式キャップ用かという形式的な違いに伴うものであるから、軽微な相違に過ぎない」
このように、機能上の制約により、意匠の創作の幅が制限されるものについては、たとえ形状が大きく異なっていても、類否に与える影響は小さくなります。

・相違点(ウ−4)環状溝の太さの相違
「本願意匠の4本の環状溝の太さの違いが目立たず共通点(C)に埋没する程度のものに過ぎない」
このように、凝視しなければ気付かない程度の差異は、需要者が特に関心を持つ部分でない限り、類否に与える影響が小さいと言えます。

・相違点(エ)底面部の態様
「部分的であり、通常目に触れにくい箇所に係るものであるから、軽微な相違に過ぎない」

底面部の態様は、両意匠の明らかな相違点ではありますが、容器の底に関する形状は通常目に触れにくい箇所です。このような箇所については、需要者の注意を惹かない部分となり、影響力が小さくなります。
同じ容器の底面に関するものであっても、例えば、不安定な形状の容器や重量のある容器など、底部における安定感が重視されるようなものであれば、影響力が大きくなる可能性があります。

以上のことから、審決では、差異点が相まって生じる視覚的効果が、共通点を上回るとして、両意匠が非類似であると認定しています。

3. まとめ
以上、実際の審決例における類否判断を見てきました。 意匠の類否判断は、主観ではなく、物品毎の需要者の目線で検討する必要があり、その部分が需要者にとって関心がある部分かどうか、ありふれた態様かどうかの判断が難しい場合も多く、なかなか一筋縄ではいきません。
類否判断において特に難しい点は、類否に与える影響の大小を的確に評価する点(共通点、差異点のウェイト付け)にあると思います。

以下に、類否判断の場面で良く用いられるウェイト付けのポイントをまとめました。

本稿では、「意匠の類否判断に親しんでもらうこと」、「形を言葉に表すことを知ってもらうこと」をメイントピックとさせていただきました。類否判断のマニュアルには到底及びませんが、類否判断の手法のイメージはつかんでいただけたかと思います。今後、類否を検討すべき場面や、審決を読み進めていく際の参考にしていただけると幸いです。

(以上)

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